第38回 実質賃金と名目賃金①~総給与所得と平均給与所得~など、政治・経済を中心とした日常的な情報を、独自な視点で解析します。

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アベノミクスを問う13

前回の記事では、朝日新聞社の記事で、就労に閉める「非正規の割合が増えた」という報道に対して、特に2014年度末より正社員の数そのものが増えていることと、無職者の数が減少していること、就労者そのものの数が増えていることを根拠として、朝日新聞社の批判は「印象操作」であることをお示ししました。

現実問題として無職者の数が減少し、就労者の数が増え、正社員の数も増えている。これこそが「アベノミクス」の成果の一つです。

今回の記事では、またさらに、安倍内閣に入ってからの「賃金」の面に着目して記事を進めていきたいと思います。

実質賃金と名目賃金①

このテーマでは、旧ブログでもテーマとして取り上げたことがありますので、実質的には旧ブログのリライトになります。

アベノミクスが批判されるときによく利用されるのがこの「実質賃金」ネタです。
「名目賃金が増えた、と安倍内閣は主張するが、安倍内閣に入ってからずっと実質賃金は下落し続けているではないか」と。

「名目賃金」についても考え方が二通りありまして、賃金を「総給与所得」で見るのか、「平均給与所得」で見るのかによっても賃金の考え方は変化します。

賃金に関するデータが見られるのは厚生労働省の毎月勤労統計調査と国税庁の「活動報告・発表・統計」>「統計情報」>「標本調査結果」の二つ。

厚労省データは実数はすべて「月別」のデータで、後は「指数」で示されています。
一方国税庁データは「年次」のデータが掲載されており、データはすべて実数のみで掲載されています。

「実質賃金」や「名目賃金」という表現を用いているのは厚労省データで、国税庁データは「民間給与所得」という表現を用いています。国税庁データには「実質」も「名目」もありません。すべて名目の指標です。

前述した「総給与所得」や「平均給与所得」を見るときは国税庁データを用います。

【総給与所得と平均給与所得】

総給与所得

こちらはまず、各年次の「総給与所得」の推移です。
給与所得総額とはその年の全ての「給与所得者」が一年間に受け取った給与所得の総額のことです。

ここにカウントされるためにはまず、その人が「給与所得者」であることが最低条件です。
「無職者」や「求職者」はここにはカウントされません。

一目瞭然ですね。2012年度に1年間の給与所得総額が大幅に落ち込んだ後、2013年になると2011年から2012年の下落幅を大幅に上回る上昇率で給与所得の総額が上昇しています。
2014年の総給与所得はリーマンショック以前の総給与所得すら上回っています。

GDPとは違って、消費増税が行われると本来は経済が圧迫されるはずですから、名目賃金にはマイナスの影響があります。にもかかわらず、給与所得の総額が上昇しているということに意味があるわけです。

平均給与所得

こちらは平均給与所得の推移です。
平均給与所得とは、総給与所得を給与所得者数で割ったものです。で、「労働者一人当たりの平均給与所得」ということになります。

この表を見ると、確かに13年度も14年度もその前年。2012年の平均給与所得を上回っているのですが、「総給与所得」のように、リーマンショック以前の数字を上回るほどの勢いはありません。

平均給与所得の総額が「総給与所得」であるはずなのに、一体なぜこのような違いが生まれるのでしょう。
その理由を示すのが、こちらのグラフです。

給与所得者数

こちらは「総給与所得者数」。つまり、一年間で給与所得者となった人が何人いたのか。その総数の推移を示したものです。

民主党政権下ではリーマンショックの影響を排除することができず、リーマンショック以前の総給与所得者数を上回ることができませんでしたが、安倍内閣に入ったその年に、給与所得者数は大幅に上昇し、一気にリーマン以前の水準を上回っています。

平均給与所得とは、

「(ある一定期間で労働者が受け取った賃金の総額)÷(賃金を受け取った労働者の数の合計数)」

という計算式で表されます。「労働者」とは「給与所得者」のこと。「賃金」とは「給与所得」のことです。

「月収」で考えると、仮にアベノミクスがスタートする前の平均月収が一人当たり30万円。正規雇用者の数が1000人であったと考えます。

この場合、「総給与所得」は30万円×1000人で3億円になります。
当然ですが、平均給与所得は3億円÷1000人で30万円になります。

ところが、アベノミクスがスタートした後、月収10万円の非正規雇用が1000人増え、月収30万円の正社員の数が500人増え、アベノミクススタート前に30万円の月収を受け取っていた1000人の労働者の月収は40万円になったとします。

整理しますと、

アベノミクススタート前
月収30万円の正規雇用者=1000人 給与所得の合計3億円
総給与所得者数=1000人 総給与所得3億円

アベノミクススタート後
月収10万円の非正規雇用者=1000人 給与所得の合計1億円
月収30万円の正規雇用者=500人 給与所得の総額1.5億円
月収40万円の正規雇用者=1000人 給与所得の合計4億円
総給与所得者数=2500人 総給与所得6.5億円


となります。
アベノミクススタート前の平均給与所得は
3億円÷1000人=30万円
 です。

一方、アベノミクススタート後の平均給与所得は
6.5億円÷2500人=26万円
 です。

前提条件では、アベノミクス前後で非正規雇用者の数が増え、正規雇用の数も増え、それまでの非正規雇用者の賃金も全て上昇しているのに、なんと平均給与所得は下落しているのです。

なぜこのようなことが起きるのでしょうか。

答えは簡単です。「低賃金の非正規雇用者の数が増えたから」です。

低賃金の非正規雇用者が増えたわけですが、この前提条件で考えた場合、果たして「雇用条件は悪化した」などといえるでしょうか。
前回の記事で非正規の割合の拡大をピックアップして報道した朝日新聞の記事を「偏向である」とお伝えしました。
上記事例においても、「被雇用者全体に占める非正規雇用の割合」も増えます。もともとゼロだったんですからね。
これは、とても解りやすい事例だと思います。

被雇用者全体の数字は二倍以上になっていますし、正規も非正規も雇用者の数が増えている上に、従来の労働者の賃金も増えているのです。

仮に正社員であろうが非正社員であろうが、最初から高額の給与所得を得ることのできる労働者など、よほど能力のある労働者でもなければまずありえません。普通は低賃金からスタートするはずです。

労働者の数が増える過程においては、このように労働条件が改善しているにもかかわらず、平均で見ると賃金が下落する、という状況が生まれることはご理解いただけると思います。

ですが、実際の安倍内閣で見た場合、確かにリーマンショック以前の賃金水準には戻っていませんが、名目の平均賃金は上昇しています。

さて、では、このように状況が改善しているにも関わらず、なぜ安倍内閣を批判する人たちは、「実質賃金は下落している」と実質賃金にばかり着目してアベノミクス批判を行おうとするのでしょうか。

この批判が正しいのか間違っているのかということも含めて、次回は「実質賃金」に着目して記事を作ってみます。

このシリーズの過去の記事
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このエントリーにお寄せ頂いたコメント

賃金の動きは平均値では実体が判らない。
賃金は高所得から低所得者層で構成されており、現在のように中間層が減少し開きが
拡大している場合は「中間所得層」等の動きも見ないと実体が判らない。その場合、例えばドットプロット等の比較で動きを見るべきでは?
山田公平 at 2016/10/07(金) 12:32 | URL

山田様、お返事遅くなりました。

おっしゃる通りだと思います。
確かにおっしゃる通り、年収層に応じてプロットしていく形での変化を調べてみるのも面白いですね。

最近作成した記事としては、こちらの記事が少し近い内容にはなっていると思います。
http://nonkinonki007.blog.fc2.com/blog-entry-178.html

ですが、飽くまで「低所得者層」と全体の平均の比較であり、「中間層」がどうかというところを示せているものではないですね。

近々チャレンジしてみます。
nonkinonki at 2016/10/09(日) 22:45 | URL

>現実問題として無職者の数が減少し、就労者の数が増え、正社員の数も増えている。これこそが「アベノミクス」の成果の一つです。

ごめん。全く違う。団塊世代が退職し、シルバーサービスの受給者が増えただけ。事実、医療福祉分野の就業者数が増えただけ。何もしなくても、必然の結果だった。

http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.htm

表4、表5
間池留 at 2017/10/20(金) 15:43 | URL

間池留 様、コメントありがとうございます。
間池留 様のおっしゃる通り、特に「前年同月比」で見た場合、医療・福祉分野の雇用に著しい「伸び率」がみられることは事実です。

ですが、それはあくまで単年度で見る「伸び率」が著しいのであって、安倍内閣がスタートする前と後を比較したとき、「医療福祉分野」の雇用者数「のみ」が増えているわけではありません。これは、間池留さんがリンクを掲載されている統計局データに記されている通りです。

逆に言えば、医療福祉分野は安倍内閣がスタートする前から、リーマンショックが起きた2008年から見ても

2008年 +19万人
2009年 +24万人
2010年 +33万人
2011年 +23万人
2012年 +30万人

と、安倍内閣がスタートする以前から継続して増加し続けています。安倍内閣がスタートした以降では

2013年 +24万人
2014年 +21万人
2015年 +26万人
2016年 +25万人

となっています。暦年ですので、12月末時点でのデータかと思われます。

ですが、同じ資料に「全産業における雇用者の伸び率」を重ねてみてみると、まったく異なる状況が見えてきます。

暦年― 医療福祉― 全産業
2008年 +19万人 +19万人
2009年 +24万人 -111万人
2010年 +33万人 +19万人
2011年 +23万人 +35万人
2012年 +30万人 -4万人
2013年 +24万人 +89万人
2014年 +21万人 +83万人
2015年 +26万人 +98万人
2016年 +25万人 +174万人

全産業の雇用者数から医療福祉分野の雇用者数をマイナスすれば医療福祉分野を除く産業の雇用者数が出てきますから、ぜひ計算してみてください。

そのうえで、「医療福祉」を新たに選択する雇用者の数は安倍内閣直前の2012年に比べて少なくなっており、医療福祉分野以外に選択できる就職先のなかった2012年以前と比較して、安倍内閣がスタートした以降は医療福祉分野以外の就業先が選択されるようになっている傾向が見えてくると思います。
nonkinonki at 2017/10/20(金) 16:33 | URL

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