第156回 名目賃金と実質賃金/2016年7月(速報)など、政治・経済を中心とした日常的な情報を、独自な視点で解析します。

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私の記事の中でアクセス数の多い記事は、日本国債に関連した情報 と 実質賃金と名目賃金に関連した情報 の二つです。

2015年通年の資料については掲載したのですが、昨日2016年7月次データが発表されたこともあり、時期がすでに半年以上経過していますので、最新のデータについても掲載したいと思います。

賃金


【本日のテーマ】
ということで、本日のテーマはタイトルの通り、「名目賃金と実質賃金2016年7月速報」について。

実質賃金6カ月連続プラス 7月、2.0%増 (9/5 日経新聞)

今回はこちらのニュースをベースに記事を進めてみたいと思います。

最新の実質・名目賃金に関する情報

まずは記事を引用して掲載します。記事内容は例によって読み飛ばしていただいても大丈夫です。

【日本経済新聞より引用(2016/9/5 10:13)】
実質賃金6カ月連続プラス 7月、2.0%増

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 厚生労働省が5日発表した7月の毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比2.0%増加した。伸び率は6月の確報値と同じで、6カ月連続で前年を上回った。ボーナスの増加などで名目賃金が増えたほか、消費者物価指数(CPI)の下落傾向が実質賃金を押し上げている。

 名目にあたる従業員1人当たりの現金給与総額は37万3808円と、前年同月比1.4%増加した。名目の給与総額のうち、基本給にあたる所定内給与は0.4%増の24万1518円。ボーナスや通勤費にあたる「特別に支払われた給与」は4.2%増の11万3150円だった。

 実質賃金の増加は給与の伸びが物価の伸びを上回っていることを示す。7月のCPI(持ち家の帰属家賃を除く総合)は前年同月比0.5%下落し、実質賃金の伸び幅が名目より大きくなった。実質賃金は6年ぶりに2カ月連続で2%台となった。ただ所定内給与の伸びは依然小幅で、物価下落の影響も大きいことから、所得環境の改善が続くかどうかは見通せない状況だ。

要約しますと、2016年7月の実質賃金が2.0%、名目賃金が1.5%上昇しましたよ、と厚生労働省が発表しましたよ、というニュースです。

以下は、「実質賃金」と「名目賃金」についてその推移を示したグラフです。
上が年別の推移(暦年ベース)、下が月別の推移を示したグラフです。

【賃金指数(暦年):2012年~2015年(左:実数 右:前年同月比)】
2015年賃金指数

【賃金指数:2015年6月~2016年7月(左:実数 右:前年同月比)】
2016年賃金指数(月別)

年別のデータも、本当はもう少し過去に遡って掲載したいんですが、どうも平成26年(2014年)のタイミングで統計対象となるデータが変更されている様なので、同一条件下では比較できないため、掲載していません。

また、第87回の記事では、「持家の帰属家賃を除かない実質賃金」について掲載したのですが、今回の月別のデータを収集するにあたっては、今年度より消費者物価指数を算出する際の「参照年度」が2015年度、つまり昨年度へと変更されてしまったため、正確な「前年同月比」が私の手元では算出できないため、今回は「持ち家の帰属家賃を含む」実質賃金をベースに記事を進めてみます。


2016年7月の「賃金指数」の特徴

今月の「賃金指数」の特徴としては、

「名目賃金の上昇率を実質賃金の上昇率が上回っていること」

これに尽きると思います。これは、実は今月初めて見られた特徴です。
過去に同様な事例があるのかどうかは資料をさかのぼってみなければわからないのですが、特にバブル経済以降で考えると、過去にこのような事例は皆無なんではないでしょうか。

というのも、これは何もあてずっぽうで言っているわけではありません。

実質成長率と名目成長率、物価上昇率の関係を、以下の等式で表すことができます。

 名目成長率=実質成長率+物価上昇率・・・①

移行して実質成長率を求める計算式に変換すると、

 実質成長率=名目成長率-物価上昇率・・・②

となります。
先ほどの日経記事の中で、

「ボーナスの増加などで名目賃金が増えたほか、消費者物価指数(CPI)の下落傾向が実質賃金を押し上げている」

と記されています。これは、つまり②の計算式に当てはめて計算した結果、

「名目成長率が上昇し、物価上昇率が下落した結果、実質成長率が名目成長率を上回った」
ことを解説した記述です。

この様な経済現象は通常名目の値が下落、もしくは横ばいで、共に物価も下落する状況に於いて普通発生する状況なのですが、今回の様に名目の値が上昇、しかも1.4%という上昇率ですから、これを更に実質の成長率が上回るという状況は非常に珍しい現象です。

というのも、例えば今回の「賃金」で考えた場合、「名目賃金が上昇する」ということは、消費に回せる可処分所得が増えることを意味しています。

消費増税が行われたときのように、名目賃金は増えたけれども、強制的に物価が上昇し、名目成長率を物価上昇率が上回ってしまった、というような場合であれば当然可処分所得も下落してしまいますが、今回はそのような増税は行われていません。

特別な事情があるわけではありませんので、やはり可処分所得は増加するはずです。
可処分所得とは、給与所得に代表される方法によって所得を手にした後、税金や社会保険料など、国から強制的に徴収される支出を行って、その結果手元に残ったお金のこと。自由に消費に回せるお金のことです。

消費に回せるお金が増えるんですから、普通であればそのお金は消費に回され、「物価」は上昇するのが普通です。

店頭に商品が並んでいる光景を思い浮かべてください。
例えば目の前に「1000円」と書かれた商品が置かれているとします。

可処分所得が少なく、1000円の消費を起こすのも苦しい状況にあったとすればその商品を買うことができませんから、おのずと値段が下落することになります。

たとえば900円に値下げした時に売れたのだとすれば、その商品の物価は「900円」です。
ですが、可処分所得が増え、これまで900円にならなければ買うことができなかった商品を1000円で買う余裕ができたとすれば、その商品は1000円で売れることになります。

1000円で売れた場合、その商品の物価は「1000円」です。

「消費者物価指数」とは、このような「物価の変動」を現した数字のことです。

繰り返しになりますが、可処分所得が増えれば、普通「物価」は上昇するのです。当然消費者物価指数も上昇するのが当たり前です。

ですが、今回はなぜか

「可処分所得が増えたにも関わらず、物価は下落し、結果的に実質賃金はさらに増えた」

のです。いったいなぜこのような現象が起きたのでしょう。


珍現象の正体

私のブログを読んでくださっている方には、もうお分かりですね?
理由は「原油価格の下落に伴うエネルギー価格の下落」にあります。

緩和総括「縮小の方向ではない」 日銀・黒田総裁が講演
こちらは昨日、日銀黒田総裁が行った講演に関するニュースです。

このニュースの中で、黒田総裁は以下のように述べています。

黒田氏は金融緩和が「経済好転に大きな役割を果たしている」とし、「『物価が持続的に下落する』という意味でのデフレではなくなっている」と述べた。

現在の物価低迷は原油安や消費増税、海外経済の減速が影響しているとした。

着目したいのは後半。物価低迷の原因とされている項目です。

「原油安」が原因であるとはっきり言っていますね。
また、合わせて「消費増税」が原因であるとも記しています。ただ・・・

日本のGDP統計の盲点 大臣も「どこまで信用していいのか...」
経済状態の善し悪しを判断する最大の材料である国内総生産(GDP)統計について、日銀と内閣府の論争が注目を集めている。2014年度のGDP成長率(物価変動の影響を除いた実質)は、内閣府が、とうにマイナス0.9%と発表しているが、日銀が最近、「プラス2.4%だった」とする独自の試算を公表して、大きな食い違いが出ているのだ。GDPの数字は経済政策運営の基礎であり、日銀の金融緩和政策への評価にもかかわるだけに、論争は熱を帯びている。

ことの発端は日銀が7月20日にホームページにアップした論文「税務データを用いた分配側GDPの試算」。住民税の納付状況(総務省調べ)や法人税の納付状況(国税庁調べ)といった税務データに基づき、過去10年ほどの実質GDP成長率は平均1.2%と内閣府の公表値(0.6%)の2倍との試算を示した。中でも、消費税率が5%から8%に引き上げられた2014年度は、名目GDPの実額は519兆円と内閣府の公表値の490兆円より約30兆円多く、成長率も内閣府算出のマイナス成長に対し、日銀はプラス2.4%と正反対の結果になった。

日銀は、職員個人の論文としているが、黒田東彦総裁が7月26日の経済財政諮問会議で、内閣府公表のGDPについて「税収は良いが、GDPが下がっているのは少し違和感がある」と表明したことから、事実上の「公式見解」の位置付けと受け止めるのが自然だろう。日銀の大規模緩和による円安効果で2014年度の企業収益は過去最高水準を記録し、雇用状況も改善したのにGDPの数字が悪かったことから、日銀内に「大規模緩和の効果が過小評価されている」との不満がある。

内閣府の算出方法は、国連の定めた基準に基づいて、個人消費や設備投資を示す政府統計などを積み上げており、多くの国がこの手法を取り入れている。ただ、2014年度は消費税率の8%へのアップ前の駆け込み需要の反動が出て消費は低迷したが、「GDPの落ち込みが大きすぎるのではないか」(エコノミスト)との見方も少なくなかった。

これに限らず、常々問題にされるのが個人消費を推計する家計調査(総務省調べ)。「細かく記入が求められるため、調査対象が家計簿をつける余裕がある高齢者や専業主婦などに偏り、単身者や共働き世帯が少なく、全体像を十分に反映していない」との指摘がある。


こちらはJ-CASTに掲載されているニュースです。
2014年の名目GDPを試算し直したところ、日銀のデータと内閣府のデータの間で約30兆円近い差が生まれた、というニュースです。

これは、私が第53回の記事 等で散々指摘している内容です。この記事は「実質GDP」について指摘していますが、そもそも名目GDPを求めるときもサンプル指標を加重平均したデータを用いており、「参考程度」にしかならないデータであることは明らかだと思っています。

「三面等価の原則」といって、本来であれば「生産面から見たGDP」と「分配面から見たGDP」、そして「支出面から見たGDP」は一致しなければならないのですが、統計指標の違いから、実は「生産面から見たGDP」と「支出面から見たGDP」は一致しません。

「生産面から見たGDP」と「分配面から見たGDP」は同じ計算方法を用いているため一致します。

GDP速報で出る「一次速報」というのは、基本的に「支出面から見たGDP」を集計したもので、当然「生産面から見たGDP」とは異なっています。「生産」から「支出」に至るまでの間で、様々な場面で二次的、三次的な「中間消費」が行われているはずなんですが、一次速報にはまったくこれが考慮されていません。

そこで、生産から支出に至るまでの流通経路を産業を横断する形でまとめた「産業連関表」を用いて、再度生産から支出に至るまでの「分配率」を算出し、ここから「支出面から見たGDP」に修正を加える「コモディティーフロー法」という方法を用いて算出し直したGDPが「二次速報」です。

半ば強引に「支出面から見たGDP」と「生産面から見たGDP」を一致させる手法なのですが、それだって例えば「産業連関表」は五年間同じ情報が使われ続けますし、そもそも支出面から見たGDPを算出する算出方法がかなりアバウトなんですから、そこにまたアバウトな指標を乗じて算出された計算結果は、またさらにいい加減なものになるのではないかと、個人的には思います。

(※正確性を欠く記述となっていますので、第159回の記事 にて再度修正した内容を掲載します。

黒田さんは形式的に「物価上昇の低迷に消費増税の影響がみられる」としているわけですが、一方でこのような記事を日銀HPに掲載している以上、暗に消費増税による影響が限定的であったことを主張している、とも取れるわけです。

だとすれば、黒田さんの想定上、「物価上昇の低迷」の原因はは「原油価格の下落」と「海外経済の低迷」に限定されることになりますね。海外経済の低迷が影響を受けるのは「輸出額」に限定されますから、これは国内経済における物価低迷の原因は「原油価格の下落」にあると主張しているに等しいのです。

そして、私も同じ意見です。

今月の賃金指数の特徴として、「名目成長率を実質成長率が上回っていることにある」と私はお伝えしました。
これは、すなわち「日本国民の手取りが上昇している上に、手取りを上回るスピードで『消費量』も増えている」ことを意味しています。。

「消費者物価指数」とは、「予測される額」ではなく、「実際に消費された額」から産出されたものですから、受け取った名目賃金が消費に回されていなければ「実質賃金」はこのような数字にはなりません。

勿論、「消費者物価指数」の算出方法そのものが非常にアバウトな計算方法ですから、これをまるまま鵜呑みにすることもできませんが、7月の「賃金」に関する評価は

「日本国民の手取りが上昇している上に、手取りを上回るスピードで『消費量』も増えている」

となります。

【次回テーマ】
次回記事では、今回の記事も含め、私が時折「日本の消費が上昇している」根拠として示している「消費者物価指数」。
この項目について、細かい項目別に、視覚情報として認識できる状態=グラフかしてお届けしようと思います。



このシリーズの過去の記事
>> 第174回 2015年民間給与統計(国税庁Ver.)が発表/3年連続の増加①
このシリーズの新しい記事
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このシリーズの一覧をご覧になりたい方は>>実質賃金と名目賃金 よりご確認ください


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