第112回 マクロ経済スライドをわかりやすく~デフレ時・インフレ時のマクロ経済スライド~など、政治・経済を中心とした日常的な情報を、独自な視点で解析します。

ランキングサイト

この記事のカテゴリー >>日本の年金


<前回の記事 第111回 将来の年金問題を考える~戦前の出生者数の推移と将来の年代別人口の推移から~
(※「マクロ経済スライド」についての説明は、後段3章目からスタートします。「マクロ経済スライド」についての説明のみ読みたい方は、後段3章目まで画面をスクロールさせてください)

シリーズ 年金の問題に於きまして、前回までの記事では、年金システムが国の制度としてそもそも破綻するのか、しないのかという、「支給する側」のシステムに基づいた解析結果をお示ししました。

ですが、それ以上に、みなさんが気にかかるのは、じゃあ自分たちが実際に受け取れる年金の受給金額。
これは将来どのくらいのものになるのか、ということになるのではないでしょうか。

私の記事を読んで、年金が破綻する可能性は限りなくゼロに近いことはわかった。だけど自分が一番知りたいのは、将来自分たちが納めた分以上の年金を受け取ることができるのかということなんだ・・・という理屈もまたごもっともだと思います。

年金手帳

【本日のテーマ】
そこで、今回のテーマは、これまで私がお示ししてきた「年金は破綻しない」という衝撃の事実。
これに基づいて、現在の年金の「給付システム」について検証してみたいと思います。


2004年度に行われた年金制度の改定

改めて、この「給付システム」について調査を行っていて感じた一つのキーポイントは、年金制度の支給状況が確認された年と、年金制度が改正された年との間に「タイムラグ」があるという点です。

私がお示ししている「年金が破綻しない理由」は、2007年~2008年。
当時の福田内閣~麻生内閣において開催された「社会保障国民会議」。
この会議において話し合われた内容に基づいて記した内容です。

この会議に参加し、提言を行った人物。

【私が年金制度を勉強するきっかけになった書籍】
「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? ~世界一わかりやすい経済の本~ (扶桑社新書)
扶桑社

細野 真宏氏が記したこの本を読んで、私は「年金が破綻しない理由」を知るに至りました。
この本に記されていた内容をもとに、この本に記されていた内容だけでは納得がいかなかった部分をすべて補完した結果たどり着いたのが私が記す「年金が破綻しない理由」です。

ですから、現在の社会保障に関する政府政策でも、年金が破綻することを前提とした政策提言は一切行われていませんし、消費税率が10%に増税された後の社会保障の予算でも、年金に充てる財源はほぼ横ばいのままでした。

【8%→10%に増税された際の財源の内訳】
消費税財源グラフ

8%に増税された段階では、年金の国庫負担分が 1/3→1/2 まで引き上げられたため、この財源として「将来の年金引き上げ分」が充てられることが2004年度の年金制度改定で定められていましたから、その国庫負担引き上げ分が含まれています。

この情報が示されたのは、2007年~2008年にかけての事。
ですが、実際に改定が行われたのは2004年なのです。

ここに焦点を当てると、どうもなぜ現在の年金制度に、「国民の負担を強いる」項目ばかりが並べ立てられているのか、ということが詳らかになりそうです。

2004年度に年金制度が改定された理由

この当時、私は今ほど政治や経済に対して関心を持っていたわけではありませんから、仮にこの時の政治背景を語れ、と言われてもそれほど具体的に記すことはできません。
ですが、この年金問題に限って考える限り、2004年に年金制度が改正された理由は、

「ひょっとしたら年金制度が将来破綻するのではないか、という妄想」

が原因だったのではないかと推察されるのです。
以後の記事では、2004年に行われた「年金制度改正」とはいったいどのようなものであったのかということをお示ししたいと思います。

【2004年度の年金制度改定内容】

1.基礎年金国庫負担割合の引上げ
2.財政検証の実施
3.保険料水準固定方式の導入等

給付に関する主な改定内容はこの3つでしょうか。
これ以外にも、在職高齢者の年金制度の見直し等の項目も含まれていますが、今回はこの3つの内容のうち3番。

「保険料水準固定方式の導入等」

について記事にしたいと思います。
1番はすでにお伝えしたように、年金の国庫負担分が1/3→1/2に引き上げられるということで、2番は5年ごとに年金の運用状況を見直す、ということです。

余談になりますが、前回の記事でお伝えした内容は、上記2004年に行われた年金の制度改正が行われた、その状況の中で行われた試算をベースにしています。

ですが、

【年金収支が黒字であるという事実】
国民年金も厚生年金も、実は大幅な黒字です。
↑こちらの内容に基づいて考えると、国庫負担分は別に1/2に増加せず、1/3のままであったとしても、年金収支は充分に黒字のまま推移できたはずです。

この事例は、「多分破綻することはないけど、ひょっとして破綻するといけないから、国民を安心させるために国庫負担割合を増加しておきましょう」という発想に基づいて行われた政策の一例です。

念のために言っておきますと、この負担増分は、消費税率で言いますと、1%分に相当します。
私は消費税増税に賛成する立場ではありますが、消費税率1%分は、2004年当時の「妄想」によって引き上げられたのだ、ということだけはお伝えしておきます。

【保険料水準固定方式の導入等】

それでは、改めて「保険料水準固定方式」のテーマに移ります。

データは、厚生労働省ホームページより、↓こちらの資料を参考にしています。
年金制度改革の概要 (国民年金法等の一部を改正する法律)

ではそもそも、「保険料水準固定方式」とは何なのでしょう。
これは、先ほどご紹介したPDF資料には以下のように記されています。

【保険料水準固定方式の導入】
○ 厚生年金及び国民年金の将来の保険料水準を固定した上で、その収入の範囲内で給付水準を自動的に調整する仕組みとする。

「厚生年金及び国民年金の将来の保険料水準を固定した上で」と記されていますね?
それでは、この改定において、二つの年金の「将来の保険料」はどのように固定されているのでしょう。

【厚生年金の保険料】
○ 厚生年金の保険料率は、平成16(2004)年10 月から毎年0.354%ずつ引き上げ、平成29(2017)年度以降は18.30%とする。

【国民年金の保険料】
○ 国民年金の保険料(月額)は、平成17(2005)年4月から毎年280 円(平成16 年度価格)ずつ引き上げ、平成29(2017)年度以降は16,900円(平成16 年度価格)とする。

まとめますと、

・厚生年金保険料は2004年~2017年までの間、毎年0.354%ずつ引き上げ、2017年度以降は18.30%で固定。
・国民面金保険料は2005年~2017年までの間、毎年280円ずつ引き上げ、2017年度以降は16900円で固定。

ということです。「年金保険料が毎年・・・」という批判があるのは、この内容に基づいた引き上げですね。
ただ・・・いかがでしょう。先ほど国庫負担分増加のケースでもご説明しました通り、現在年金収支は大幅な黒字で推移しており、更に余剰分が毎年「年金積立金」や「基礎年金勘定」に積み立てられている現状があります。

この状況の中で、本当に毎年これだけの保険料率を引き上げていく必要があるのでしょうか?
これもまた2004年当時、年金が破綻するのではないかという「妄想」にとらわれて年金制度が改定されているという一つの事例になります。

【マクロ経済スライド】とは?

さて、こちらが本題です。
先ほどの「保険料水準固定方式の導入」において、保険給付水準固定方式を導入した後、「その収入の範囲内で給付水準を自動的に調整する仕組みとする」と記されています。

では、「その収入の範囲内で給付水準を自動的に調整する仕組み」とは一体どのような仕組みなのでしょう。
この仕組みにおいて、先ほどのPDF資料では下記の様に記されています。

【マクロ経済スライドの導入】
○ 社会全体の保険料負担能力の伸びを年金改定率に反映させることで、給付水準を調整(マクロ経済スライド)する。(ただし調整は名目額を下限とし、名目額は維持)

【マクロ経済スライド】

・新規裁定者の改定率:手取り賃金の伸び率 - スライド調整率
・既裁定者の改定率 :物価の伸び率 - スライド調整率

*スライド調整率:公的年金全体の被保険者数の減少 + 平均的な年金受給期間(平均余命)の伸びを勘案した一定率

少しわかりにくいですが、わかりやすい部分だけ先に説明してみます。

記載内容から推測すると、マクロ経済スライドには対象者が2種類いる、ということになります。
一つが「新規裁定者」、もう一つが「既裁定者」です。

そして、

・「新規裁定者」は受け取る年金受給額が、現役世代の平均手取り賃金の上昇率(または下降率)から「スライド調整率」をマイナスした分上昇(または下降)する。

・「既裁定者」は受け取る年金受給額が、「物価」(消費者物価指数)の上昇率(または下降率)から「スライド調整率」をマイナスした分上昇(または下降)する。

ということになります。

この時点で、既にわけのわからない用語がたくさん登場していますね・・・。
一つ一つ説明していきます。

【「新規裁定者」と「既裁定者」】
前提条件として、年金の受給スケジュールは「年度」単位で運用されており、4月にスタートし、3月に終了する、ということを頭に置いておいてください。

そのうえで、「新規裁定者」とは、「68歳到達年度未満」の人のことです。
意味が分かりませんね。

「68歳到達年度とは?」

「68歳到達年度」とは、受給年度中に68歳になる年度のこと。
「68歳到達年度未満」とは、受給をスタートした年齢から、受給者が67歳になるまでの年度のこと。

わかりますかね?
68歳になる年度まで到達すると、その年度から「既裁定者」となります。
既裁定者となるまでの年度の間はその人は「新規裁定者」となります。

新規裁定者の受け取る年金は「平均手取り賃金」を基準に決められ、
既裁定者の受け取る年金は「物価」を基準に決められますよ、ということです。

新規裁定者の年金は現役世代の手取り賃金が上昇すれば上昇し、減少すれば減少します。
既裁定者の年金は「物価」が上昇すれば上昇し、下落すれば減少します。

この様に説明すると、ご理解いただけますでしょうか。
但し、その上昇率には制限が設けられていて、その制限となっているのが「スライド調整率」になります。

【スライド調整率とは?】
PDF資料資料では、「公的年金全体の被保険者数の減少 + 平均的な年金受給期間(平均余命)の伸びを勘案した一定率」と説明されています。

書いていることはわからないでもありませんが、「勘案した一定率」などと記されてしまいますと・・・理解不能ですね。
ここからは、厚労省HPより、もう一つの資料(マクロ経済スライドってなに?)を参考に記載していきます。

【マクロ経済スライドのイメージ】
スライド調整率

画像の下に、「公的年金全体の被保険者の減少率の実績」+「平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)」
と記されています。つまり、「平均余命の伸びを勘案した一定率」とは、その言葉の通り固定であり「0.3%」だということですね。

平均余命の伸び率を考案した一定率がなぜ0.3%なのか、ということに関してはその計算方法等を明示した資料がまったく見つかりませんので検証することはできませんが、政府は0.3%と設定していることになります。

また、「公的年金全体の被保険者」とは、年金保険料を納めている「現役世代」のことを示していて、現役世代の人数が減少するとその減少率に従って受給世代が受給することができる年金の受給額も減少しますよ、ということになります。

政府はこの「スライド調整率」を2025年までにわたって、向こう0.9%と試算しているようです。

つまり、67歳までの方の年金受給額は、現役世代の手取り賃金が0.9%を上回れば受給金額は増額し、68歳以上の方は、消費者物価指数が0.9%を上回れば増額する、ということになります。

ちなみに、平成27年度の「賃金」は、前年の賃金名目で0.9%以上増えていますから67歳までの受給世代の年金受給額は増えていますが、物価上昇率は0.8%で0.9%を下回っていますから、68歳以上の受給額は増えていません。

「手取り賃金上昇率」や「物価上昇率」が「スライド調整率」を下回った場合
PDF資料資料では、年金変動率の下限について、以下のように記しています。

「調整は名目額を下限とし、名目額は維持」

としています。
これはどういうことかというと、先ほどの27年度の事例でいえば、68歳以上の年金受給者のケースがこれに当てはまります。

物価上昇率は0.8%と上昇していますが、スライド調整率は0.9%ですから、スライド調整率の方が物価上昇率を上回っています。
この場合、スライド調整の下限は0.8%となります。

「名目額を下限とする」ということは、すなわち前年度の年金受給額を下限とし、それ以上下落することはありませんよ、ということです。

但し、物価が下落する過程=「デフレ社会」においてはその物価下落率が反映され、年金受給額は下落することになります。
この様に考えると、年金の仕組みから考えても、以下に「物価」や「賃金」の水準を維持させるのかということが大切だということが分かりますね。

まとめ

さて。改めて考えてみましょう。
マクロ経済スライドを含むこれらの年金制度は、全て「年金制度が破綻するかもしれない」という「妄想」に基づいて、2004年度に考え出された年金システムだということです。

では、どうしてこのような妄想に基づいた年金システムが現在実行されているのでしょうか。
答えは簡単です。国民全体が「年金は破綻する」と思い込んでいるからです。

実際私が講師を務めた勉強会でも、全ての人が「年金は破たん状態にある」または「将来破綻する危機にある」と思い込んでいました。ひょっとすると2004年以前の状況に戻してしまえば、ひょっとすると何らかの支障が生まれるのかもしれませんが、少なくとも現行制度は「行き過ぎ」だということはご理解いただけると思います。

ですが、もし制度を私たち国民にとって負担が少なくなるように改正するのであれば、私たち国民が「年金制度は破綻しない」という理由をきちんと理解し、その声を国に届けるような努力が必要なのではないでしょうか。

「年金は破綻するかもしれないが、マクロ経済スライドはやめろ」とか、
「年金は破綻するかもしれないが、保険料水準固定方式は廃止しろ」というのでは理屈が通らないと思います。

私たち不満を抱いている制度とは、そのほとんどが私たち国民の制度に対する無理解。
誤った認識がそうさせているのだということを、私たち国民はしっかりと認識する必要があるのではないでしょうか。

尤も、このような発想に基づいて考えた場合でも、年金保険料が上昇するのは来年度までであり、それ以降は据え置きになるということ。また、「物価」や「賃金」が上昇する過程においては年金給付費が下落することはないということ。その上昇率がスライド調整率(2025年までは0.9%)を上回れば年金受給額も上昇するという、制度に対するきちんとした理解も忘れないようにしたいものです。


このシリーズの過去の記事
>> 第111回 将来の年金問題を考える~戦前の出生者数の推移と将来の年代別人口の推移から~
このシリーズの新しい記事
>> 第117回 公的年金制度の仕組みをわかりやすく図解入りで解説いたします。 にほんブログ村 政治ブログへ にほんブログ村 経済ブログへ

このシリーズの一覧をご覧になりたい方は>>日本の年金 よりご確認ください


このエントリーにお寄せ頂いたコメント

URL:
コメント:
 

スポンサードリンク

Copyright © 真実を問う!データから見る日本 All Rights Reserved.
ほったらかしでも稼げるFC2ブログテンプレート [PR]