第105回 緊急事態条項の真実~現行法制の本当の問題点を問う~など、政治・経済を中心とした日常的な情報を、独自な視点で解析します。

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<前回の記事 第104回 本当の国債発行額と国債発行残高の推移

先日、私の住む松山市で、JC(日本青年会議所)主催での、第24回参議院通常選挙公開討論会が開催されました。

【第24回参議院通常選挙公開討論会@松山の様子】
第24回参議院中将選挙公開討論会

呼ばれたのは、次期参議院議員選挙に立候補する予定の3名の立候補予定者。
まだ公示期間とはなっていませんので、ここで名前を明らかにすることはしませんが(とはいえ、過去の私の記事をさかのぼれば一部の立候補予定者はわかるかもしれませんね)、この3名の立候補予定者による、「討論会」が行われました。

ただ、正直な感想としては、3名の立候補予定者が、それぞれの持ち時間の中でそれぞれの政策のPRをするだけの時間でしかなかったな、という感想です。「討論会」といいながら、お互いの立候補者が言葉を交わす機会すらなく、全員が全員同じ情報について、まったく違う情報を発信するものだから、はっきり言って誰が正しいことを言っていて、誰が間違ったことを言っているのか。
普段政治に関心を持っていない人にとっては、却って情報を混乱させるためだけの「発表会」でしかなかったと、そんな印象しか残りませんでした。

さて。このような討論会の中で、一人の女性立候補者が言及した「緊急事態条項」という言葉。
私は、過去の記事の中で、一度この「緊急事態条項」について記事にしたことがあります。

第86回 本当のアベノミクス

【本日のテーマ】
ですが、この時の記事では、サブタイトルとして「緊急事態条項」を冠した枠の中での記事掲載とはいうものの、やはり全体の中に埋もれている感じがぬぐいきれません。

そこで、本日はこの「緊急事態条項」というテーマについて、更にピックアップする形で改めて記事にしたいと思います。


緊急事態条項とは何か

「緊急事態条項」。人によってはあまり耳慣れない言葉かもしれません。
自由民主党は、「党是」として自主憲法の制定を掲げており、その改正案として自民党が決定しているのが「日本国憲法改正草案」。
「緊急事態条項」とは、この自民党の憲法改正草案の中に記されている「追加条項」の一つです。

【自民党 憲法改正草案 第98条 (緊急事態の宣言)】
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。


緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。


内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。
また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。


第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。
この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。

【自民党 憲法改正草案 第99条 (緊急事態の宣言の効果)】
緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。


前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。


緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。


緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設ける

こちらのふたつの条文が「緊急事態条項」に関係する部分ですね。
第86回の記事では、99条の内容については言及していませんでした。
ですので、情報として少し正確性を欠いていたかと思います。

参議院通常選挙公開討論会@松山において、その女性立候補者が言及した「緊急事態条項」とは、「安倍内閣の独裁」につながるものであり、非常に危険な改正であると、このように言及していました。

この立候補者の言い分をそのまま参照するとすれば、例えば自民党の改正案では、

・何が「緊急事態」であるのかを決められるのは内閣総理大臣である。(98条1項)

・緊急事態の宣言がなされれば、国民の権利は制限され、内閣総理大臣の指示に従わなければならなくなる。(99条3項)

・緊急事態の宣言がなされれば、その期間、衆議院を解散することもできなくなる。(99条4項)


とされており、このことが「安倍内閣の暴走につながるのではないか」との懸念を表明していたのです。
「緊急事態条項」の危険~しんぶん赤旗より~

「緊急事態条項」の危険性を主張する人たちは、その主張の根底に、「緊急事態条項が認められると、日本が軍国主義化し、戦争の道へと突き進んでいくのではないか」という・・・一種のフィクションのような考え方があります。

これを如実に象徴しているのが共産党の発行する「赤旗」の記事内容です。

【しんぶん赤旗より】
再批判 自民党改憲案 (4) 「緊急事態条項」の危険

 安倍晋三首相や改憲右翼団体・日本会議が優先事項として新設を狙う「緊急事態条項」は、自民党改憲案にすでに盛り込まれています。

 「緊急事態」とは、「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」(第98条)と定められています。何よりまず「外部からの武力攻撃」への対処のためのものです。

 首相による「緊急事態」宣言のもとで、何ができるのでしょうか。

国民に服従義務

 法律に基づいて「内閣は法律と同一の効力を有する政令(緊急政令)を制定する」ことができます。これにより、国会審議を抜きに、内閣が人権制約をはじめ「立法権」を行使できます。政令の管轄事項に制限はなく「何でもできる」ことになります。三権分立や国会中心主義などの原則が停止し、首相と内閣に権限が集中します。

 さらに国民保護のための国等の指示に国民は「従わなければならない」と、服従義務が規定されます。緊急政令では、罰則制定も排除されません。

 自民党改憲案取りまとめの起草委員会事務局長を務めた礒崎陽輔参院議員は、「(緊急政令で)人権制約は考えていない」などとツイッターで発信しています。

 しかし、自民党改憲案Q&Aは、従来の「国民保護法制」では国民の服従義務について憲法上の根拠がないため、国民への要請は全て「協力を求める」という形でしか規定できなかったと不満を告白しています。法律レベルの緊急事態法=有事法制の一部である国民保護法制に強制力を持たせるのが大きな狙いです。

 さらにQ&Aでは、「国民の生命、身体及び財産という大きな人権を守るために、そのため必要な範囲でより小さな人権がやむなく制限されることもあり得る」と明言しています。

内閣頂点の軍政

 結局、内閣(国)の措置に強制力が付与され、人権が停止するに等しい状態となります。「緊急事態」のもとで、まさに内閣と首相を頂点とする専断的な体制がつくられます。

 戦争法の発動で米軍への支援が開始される場合、通信傍受やテロ容疑者拘束のための強制手段が拡大され、軍事対応を批判する言論への統制も一気に強化される恐れがあります。意思決定の中心は「国家安全保障会議」であり、事実上の戒厳(軍政)です。

 国会では政府対応を批判する議論がされていても、「緊急事態」を首相が宣言すれば、政府が独断で強権措置を発動できるのです。

そう。討論会において、女性議員が言っていた「緊急事態条項」に関する内容は、この共産党の考え方に基づいた主張です。
この記事の中に、このような文言が出てきます。

 「緊急事態」とは、「我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」(第98条)と定められています。何よりまず「外部からの武力攻撃」への対処のためのものです。

<中略>

 しかし、自民党改憲案Q&Aは、従来の「国民保護法制」では国民の服従義務について憲法上の根拠がないため、国民への要請は全て「協力を求める」という形でしか規定できなかったと不満を告白しています。法律レベルの緊急事態法=有事法制の一部である国民保護法制に強制力を持たせるのが大きな狙いです。


さて、ではこの記事に出てくる、「国民保護法制」とは、一体何を刺すのでしょう。

「国民保護法」とは?

国民保護法
↑こちらが「国民保護法」です。
開いていただいても、おそらく意味が分からないと思いますので、まずはこのような法律がある、ということだけご認識ください。

この法律の正式名称は、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」といいます。

平成16年(2004年)6月18日に交付されたもので、既に施行されています。(有効になっています)
第86回の記事でもお伝えしましたが、この法律は日本が戦争状態になったとき、もしくは戦争に準ずる状態となったときには、態々憲法に「緊急事態条項」などを追加せずとも、緊急事態条項が追加された結果、可能となる内閣総理大臣の権限はすでに実施することが可能だ、ということが書かれています。

ちなみに、象徴的な法文は、例えばこんな法文です。

【国民保護法第56条(避難の指示に係る内閣総理大臣の是正措置)】
内閣総理大臣は、避難の指示に関し対策本部長が行った事態対処法第十四条第一項 の総合調整に基づく所要の避難の指示が要避難地域を管轄する都道府県知事により行われない場合において、国民の生命、身体又は財産の保護を図るため特に必要があると認めるときは、対策本部長の求めに応じ、当該都道府県知事に対し、当該所要の避難の指示をすべきことを指示することができる。


内閣総理大臣は、前項の規定による指示を行ってもなお所要の避難の指示が当該要避難地域を管轄する都道府県知事により行われないとき、又は国民の生命、身体若しくは財産の保護を図るため特に必要があると認める場合であって事態に照らし緊急を要すると認めるときは、対策本部長の求めに応じ、当該都道府県知事に通知した上で、自ら当該所要の避難の指示をすることができる。

この法律では、国民の生命、身体若しくは財産の保護を図るため特に必要があると認める場合で、緊急性がある場合、または都道府県知事が従わない場合、知事を飛び越えて内閣総理大臣が直接国民に対して避難指示を行うことができる、と書かれています。

【国民保護法第93条(海外からの支援の受入れ)】
内閣は、著しく大規模な武力攻撃災害が発生し、法律の規定によっては避難住民等の救援に係る海外からの支援を緊急かつ円滑に受け入れることができない場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときは、当該支援の受入れについて必要な措置を講ずるため、政令を制定することができる。

災害対策基本法第百九条第三項 から第七項 までの規定は、前項の場合について準用する。

【国民保護法第103条(金銭債務の支払猶予等)】
内閣は、著しく大規模な武力攻撃災害が発生し、国の経済の秩序を維持し及び公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときは、金銭債務の支払(賃金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及びその支払のためにする銀行その他の金融機関の預金等の支払を除く。)の延期及び権利の保存期間の延長について必要な措置を講ずるため、政令を制定することができる。

災害対策基本法第百九条第三項 から第七項 までの規定は、前項の場合について準用する。

こちらの法律には、海外からの支援を受け入れたり、債務の支払いを猶予する場合には限っていますが、内閣総理大臣が独断で法律を制定することまで認められています。
しかもその法律の制定は戦争状態ではなく、災害時にも可能だと書いています。

何度も言いますが、この法律は「緊急事態条項」が成立したら可能になることではなく、「国民保護法」という、現行の法制度下で、既に可能である、ということです。共産党が騒いでいる「緊急事態条項の危険性」など、わざわざ改憲を行わずとも、現行の法制度下で十分起こりうることだということです。

共産党が騒いでいる、自民党の憲法改正Q&Aに書いている、

国民の生命、身体及び財産という大きな人権を守るために、そのため必要な範囲でより小さな人権がやむなく制限されることもあり得る

という文言ですが、具体的にそのような事例は過去にいくつも発生していますね?
東日本大震災における津波や火災、原発事故に伴った避難指示、勧告、命令。

熊本の時も同様な事例は発生しました。
これらは全て、実は「国民保護法」ではなく、「災害対策基本法」に基づいた事例です。

自民党や改憲に賛成する団体が、改正内容の中に「緊急事態条項」を盛り込もうとする理由は、実はここにあります。

「戦争状態」に陥らなければ発動されない「緊急事態宣言」

誤解のないように言っておきますと、災害時にも「緊急事態宣言」は行われます。
ですが、災害対策基本法に基づく「緊急事態宣言」と、国民保護法に基づく「緊急事態宣言」では意味が違います。

災害対策基本法に基づく「緊急事態宣言」では、その権限が与えられるのは「都道府県知事」や「市区町村長」、「非常(緊急)災害対策本部の本部長」、「本部長より権限を委譲された職員」、「道路管理者」、「独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構」、「国土交通大臣」、など、本当にバラバラにその権限が与えらえています。

例えば、「道路管理者」が与えられている権限には、以下のようなものがあります。

【災害対策基本法第76条(災害時における車両の移動等)】
道路管理者は、その管理する道路の存する都道府県又はこれに隣接し若しくは近接する都道府県の地域に係る災害が発生した場合において、道路における車両の通行が停止し、又は著しく停滞し、車両その他の物件が緊急通行車両の通行の妨害となることにより災害応急対策の実施に著しい支障が生じるおそれがあり、かつ、緊急通行車両の通行を確保するため緊急の必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、その管理する道路についてその区間を指定して、当該車両その他の物件の占有者、所有者又は管理者に対し、当該車両その他の物件を付近の道路外の場所へ移動することその他当該指定をした道路の区間における緊急通行車両の通行を確保するため必要な措置をとることを命ずることができる。

要は、道路管理者は緊急物資の配送や緊急通行車両の交通の確保などで、緊急の必要性が認められるときは、区間の通行を制限したり、車両や物件を道路以外の場所に移動することを命令したりすることができますよ、ということです。

同様の権限は都道府県公安委員会にも与えらえたりするわけですが、これだけ権限や管轄がバラバラだと、例えば各自治体、市町や都道府県をまたいだ交通規制を行ったりする場合には膨大な時間が必要とされ、このことで救援や救出が遅れたりすることも十分考えられます。

また、道路管理者が車両や物件の移動を命令しようとしても、その命令する相手が存在しなければ、それを移動することができません。
やむを得ず行政に依頼して代執行をしてもらおうとしてもそもそも命令する相手が亡くなっていたり、行方が分からなくなってしまっていれば、代執行を行うことすらできないのです。

ところが、この「緊急事態宣言」がなされた後、その権限が与えられるのが「国民保護法」の様に、「内閣総理大臣」であった場合はどうでしょうか。

まとめ

第86回の記事でお伝えした「G空間プロジェクト」。これを活用すれば、東日本大震災や、熊本の震災の折にも、より迅速な救命活動、救援活動が可能であったはずです。

そして、この時に、「国民保護法に基づいた」緊急事態宣言が行われ、道路利用権限の管轄が一括して内閣総理大事に与えられていれば、もっと多くの命が助かったかもしれません。被災者が苦しむ期間ももう少し短くて済んだかもしれません。

「緊急事態条項」とは、現在「戦争状態に陥らなければ発動することのできない緊急事態宣言」を、「大規模災害時」にも発動できるようにし、国民の命や財産を守るため、より迅速な対応が可能になるようにしませんかと、そのような提案なのです。

共産党は、「緊急事態条項が憲法に追加されると、安倍内閣が軍政化し、政府が独断で強権措置を発動できる様になる」と大騒ぎしています。

ですが、どこまでを「強権措置」と呼ぶのかは知りませんが、現行法制度下でも本当に戦争状態になれば、政府は独断で「強権措置」を発動することが可能です。

ですが、大規模災害が起きても「強権措置」を発動することはできません。
共産党が言っていることが、とても「矛盾した主張」であることはご理解いただけますでしょうか?

ちなみに、「第24回参議院通常選挙公開討論会@松山」において声高に「緊急事態条項の危険性」を主張していたのは、共産党員ではなく、元民主党員で、おそらく仮に当選することができたとしたら、彼女は民進党に入党するものと思われます。

その人物が、共産党が主張する「憲法改悪」とやらを必死に訴えているのです。

「私は別に憲法改正そのものに反対するわけではありません。現在の安倍内閣で会見されることを拒否しているのです」
↑だったらもっと「緊急事態条項」についてきちんと勉強してからしゃべったらいかがですか?

この討論会、18歳選挙権年齢引き下げに関連して、松山市内の某大学で開催された討論会です。
ですが、誰もこの彼女の暴論を批判できる人は存在しませんでした。なぜなら、そのような仕組みにはなっていなかったからです。

このような状況の中で、果たして初めて投票を行う18歳の諸氏は本当に正しい判断に基づいた投票行動が行えるのでしょうか。
私は非常に疑問でなりません。


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>> 第120回 参議院議員(2016年)選挙結果を検証する~組織票V.S.知名度?-愛媛県選挙区の選挙結果から~
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