第87回 2015年度版実質賃金の見方など、政治・経済を中心とした日常的な情報を、独自な視点で解析します。

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<前回の記事 第86回 本当のアベノミクス

例によってまだまとまった時間が取れていませんので、今回も記事の作りやすい経済関係の情報で記事を作ります。

私のブログで、最もよく閲覧されている記事は、こちらの記事。
第42回 実質賃金と名目賃金④~続実質賃金の正体~

キーワードは「名目賃金 実質賃金」、「実質賃金の推移」「名目賃金の推移」「実質賃金指数」などのキーワードから訪問していただいています。

ただ、内容としては第43回の記事の方が参考にはなるのですが、どうも「実質賃金」についての説得力がいまいちだな・・・と考えているわけです。

例えばこんな記事

実質賃金0.9%減 15年、物価上昇に賃上げ追いつかず

を呼んだ人が私のブログを読んだときに、「なるほど、実質賃金には統計のマジックがあって正確な経済状況を反映できていないんだな」と思っていただけるかというと、どうもそこまでの自信はございません。

ですので、今回の記事は「実質賃金」というテーマに対するリベンジを行うことが目的です。

賃金指数推移(2015)


持ち家の帰属家賃を除く総合

さて。前段でお示ししたグラフ。
2014年に実質賃金が下落しているのは消費増税が行われたため、所謂「物価」が急激に上昇したことが理由なのですが、ではその翌年。
つまりは昨年、2015年の「実質賃金指数」が急速に下落していることが分かります。

微増とはいえ、名目賃金は98.9から99.0に上昇しているのですが、なぜか「実質賃金指数」は下落していますね。

ちなみに「名目賃金指数」や「実質賃金指数」の意味について詳細は第39回の記事をご覧ください。

「名目賃金指数」とは簡単に説明すると、2015年度の数字でいえば、2010年の月間給与所得を100として、そこから給与が増えたのか、減ったのかという数字です。100以下であれば2010年の給与所得より安いですよ、100以上であれば2010年の給与所得より多いですよ、という数字です。

「実質賃金指数」とは、「名目賃金指数」を「『持ち家の帰属家賃を除く』消費者物価指数」で割ったものです。

「持ち家の帰属家賃」っていったいなんだ、という話なのですが、これは後々、ご説明いたします。
(※後段前半部分のテーマはこの「持ち家の帰属家賃」になります。普通に読み進めると違和感を覚えるかもしれないので、追記です)

ではここで、前段でお示ししたニュースについて振り返ってみます。
実質賃金0.9%減 15年、物価上昇に賃上げ追いつかず

 厚生労働省が8日発表した2015年の毎月勤労統計調査(速報値)によると、物価変動の影響を除いた15年通年の実質賃金は前年から0.9%減少した。マイナスは4年連続となる。名目賃金にあたる現金給与総額は0.1%増で2年連続のプラスだった。賃金の上昇が物価上昇のペースに追いついていない。

 15年の現金給与総額は月平均31万3856円。内訳をみると基本給を示す所定内給与は前年比0.3%増の23万9712円、残業代にあたる所定外給与は0.4%増の1万9586円だった。ボーナスなど特別に支払われた給与が5万4558円と0.8%減ったため、現金給与総額の全体では0.1%増にとどまった。

 消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は前年に比べ1.0%上昇と現金給与総額の伸びを上回ったため、実質賃金の伸びはマイナス圏から抜け出せなかった。

 厚労省が同日発表した15年12月の実質賃金も前年同月より0.1%減った。12月の現金給与総額は0.1%増の54万4993円。基本給にあたる所定内給与(0.7%増)や残業代を示す所定外給与(0.8%増)は堅調だったものの、ボーナスなどの特別給与が0.4%減と足を引っ張った。

記事内容としては、「実質賃金指数が4年連続で下落してるじゃないか。アベノミクスは失敗だろ?」ということを暗に書いたニュースです。

記事中にも書いていますね?

「消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)は前年に比べ1.0%上昇と現金給与総額の伸びを上回ったため、実質賃金の伸びはマイナス圏から抜け出せなかった。」

と。そう。つまりは「持家の帰属家賃」ってなんだって話です。
なぜわざわざ消費者物価指数から「持ち家の帰属家賃を除くの?」ということです。

ちなみに、「持家の帰属家賃を除かない総合」をグラフにしてみるとこんなになります。

【実質賃金指数(持ち家の帰属家賃を除かない値との比較)】
賃金指数推移(2015:持家家賃を除く)
(※前段のグラフとは配色が異なってしまい、申し訳ありません。前段の赤と、このグラフのグリーンが同じデータです)

比較できるように、「持家の帰属家賃を除く」実質賃金指数と「持家の帰属家賃を除かない」実質賃金指数を両方掲載しています。
青が名目賃金指数、赤が除かない実質賃金指数、緑が除く実質賃金指数をそれぞれ表しています。

折れ線グラフは「消費者物価指数」で、青は「持家の帰属家賃を除く」もの、紫は除かないものです。

何となくわかりますね。持ち家の帰属家賃を含む消費者物価指数で計算すると、実質賃金はほぼ横ばい。
除く消費者物価指数で計算した実質賃金ほどは低くならないということです。

ではそもそも「持家の帰属家賃」とは何なのか。
これはつまり、自分の持ち家がもし持家じゃなく、誰かに家賃として支払っていたらいくらになるのか・・・という数値です。

「持家の帰属家賃を除く総合」とは、「もし自分の家が借家で、誰かに家賃として支払っていたらその家賃は消費に回されないから、その分消費は減るよね」というまったく意味の分からない理由から「持家の帰属家賃」を消費者物価から除外して計算したもの。

いや・・・まったく意味が分かりません。で、なぜそんな意味不明なことをするのか。

これを調べてみますと、統計局のホームページに、こんなことが記されていました。
家計調査において,実収入や消費支出の対前年などの増減率の実質化に用いている消費者物価指数は「総合」ではなく,「持家の帰属家賃を除く総合」です。

  「持家の帰属家賃」とは,実際には家賃の受払いを伴わない自己所有住宅(持ち家住宅)についても,通常の借家や借間と同様のサービスが生産され,消費されるものと仮定して,それを一般市場価格で評価した概念的なものです。これは,国際比較を行う際などで,持ち家率の違いにより住居費が異なる点を補うために大変有効な考え方です。

  世帯の実際の支出を調査する家計調査には「持家の帰属家賃」に該当する項目がないため,実収入や消費支出の対前年増減率の実質化には,「持家の帰属家賃を除く総合」を用いています。

  なお,食料や被服など,消費支出の内訳の項目の対前年増減率の実質化には,それぞれの項目に該当する消費者物価指数を用いています。

「これは,国際比較を行う際などで,持ち家率の違いにより住居費が異なる点を補うために大変有効な考え方です」

は!?
つまり、日本の実質賃金を外国の実質賃金と比較するとき、誤差が生まれるから、日本国内で、同じ国内の期間別の実質賃金を比較するときも日本と外国を比較するときと同じ指標を用いましょうね、ということです。

は!? マジで意味が分かりません。

ちなみに、今年と昨年を比較した時、「持家の帰属家賃を除く消費者物価指数」が上昇した理由として考えられるのは、つまり「家賃」が下がったから。
(※捕捉です。一般的な「家賃」が下落しましたので、その下落が「持ち家の帰属家賃」にも反映されています。
「持家の帰属家賃を除く消費者物価指数」では、消費者物価指数から持ち家の帰属家賃がマイナスされています。ですが、家賃が下落したことにより、消費者物価指数からマイナスされる「持ち家の帰属家賃」の値が減少していますので、結果的に「持家の帰属家賃を除く消費者物価指数」は家賃が下落する前と比較して上昇することになります)


なぜ家賃が下がったのかその理由はわかりませんが、それをわざわざ「持家」にまで反映させて計算する必要なんてまったくないんじゃないですか?
(※追記です。家賃が下がった理由の中にも、「エネルギー価格の下落」が影響しているのではないか、と推察されます。
詳しくは第99回の記事をご参照ください)


改めて考える「消費者物価」

さて。改めて考えてほしいのは、「消費者物価指数」という言葉についてです。
第85回の記事でも記しましたが、2015年の消費者物価指数が伸び悩んでいるのは、別に本当に消費者物価が上昇しなかったからではありません。

「原油価格」が急速に値下がりしたからです。
つまり、原油価格が値下がりしなければ、2015年の「消費者物価指数」はもっと上昇していたということ。

この場合、「実質賃金指数」は下落しますが、たとえ実質賃金が下落しようが、「消費者物価指数」は、「消費されなければ上昇しない値」です。いくら商品の店頭販売価格が上昇したところで、だれも買う人がいなければ消費者物価指数は上昇しません。

「名目賃金」の側面から考えた場合も一緒です。

完全失業者数が減少し、就業者数が増える過程において、「名目賃金」は減少します。
(詳しくは第38回の記事をご覧ください)

有職者となった無職者は、名目賃金を引き下げることに貢献しますから、完全失業者数がある一定の水準以下になるまで、たとえ労働者全体の「総給与所得」が増えたとしても、名目賃金が上昇できるとは限りません。

ですが、たとえ名目賃金が上昇していなかったとしても、「消費者物価指数」は「消費」されなければ上昇しない、ということを忘れないでいただきたいと思います。消費されたから「消費者物価指数」は上昇するのです。

先ほどのニュースでは、「賃金の上昇が物価上昇のペースに追いついていない」と記されていました。
ですが、そもそも「消費」とは、「可処分所得」が上昇したからこそ上昇するのです。いかがでしょう。単純に「4年連続で実質賃金が下落した」と、あたかもアベノミクスが失敗したかのように表現することが、いかなる「ミスリード」であるのか。イメージしていただけたでしょうか。

所得が増える→より高額なものが売れるようになる→消費者物価指数が上昇する→実質賃金は下落する
という流れです。所得が増えているのに、実質賃金は下落しているという現象が起きているのです。

う~ん・・・どうでしょう。
リベンジになったでしょうか。もう少しわかりやすく説明できる方法が見つかったら、また記事を作りたいと思います。

このシリーズの過去の記事
>> 第156回 名目賃金と実質賃金/2016年7月(速報)
このシリーズの新しい記事
>> 第43回 実質賃金と名目賃金⑤~厚労省データと国税庁データの違い~

このシリーズの一覧をご覧になりたい方は >>実質賃金と名目賃金 よりご確認ください


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