第45回 「原油価格」と「為替相場」など、政治・経済を中心とした日常的な情報を、独自な視点で解析します。

ランキングサイト

この記事のカテゴリー >>原油価格


<前回の記事 第44回 アベノミクスを問う18

アベノミクスを問う19

前回の記事では、実質賃金指数の決まり方に大きな影響を与える「消費者物価指数」に着目し、「消費増税」も「生鮮食料品」も「輸入物価」も含む消費者物価指数「CPI」が、なぜ実質賃金指数を決定する数字として用いられるのかということを解説いたしました。

ただし、今回のシリーズは「アベノミクスを問う」というシリーズ。
単純に用語解説をすることが目的ではありません。「消費増税」も「生鮮食料品」も「輸入物価」も含まれる消費者物価指数ですが、では「消費増税」は実質賃金にどのような影響を与えたのか。「輸入物価」はどうであったのか。

前回の記事では、今回の記事に対して、特に「輸入物価」に着目して解析を行うことを託しました。

「輸入物価」の見方

さて。まずはこちらの円グラフをご覧ください。
日本の輸入内訳(2015年10月)

こちらは、2015年10月の輸入項目の内訳です。
金額ベースで、総額は536億ドルになります。

一方でこちらをご覧ください。
日本の輸入内訳(2012年10月)

こちらは2012年10月。アベノミクスがスタートする前の輸入項目の内訳です。

二つのグラフを比較して、いくつかの違いがあることに気づくでしょうか。
最も大きな違いは「総額」の変化。

アベノミクススタート前、2012年10月の総額が728億ドルであったのに対し、
今年、2015年10月の総額は536億ドル。

実に200億ドル以上も輸入額が下落していることに気づきます。

では、それぞれの総額を円ベースに換算するとどうでしょう。

2012年10月で、ドルに対する円の価値が最も高かった時の為替相場が1ドル78円。
2015年10月で、ドルに対する円の価値が最も低かった時の為替相場が122円です。


これを、それぞれの輸入内訳総額にかけますと、

2012年10月は6.84兆円。
2015年10月は6.54兆円


となります。

安倍内閣がスタートした当時、マスコミ等でよく見かけなかったでしょうか。

安倍内閣に入って、円安が急速に進行し、『輸入物価が上昇』し、『国民の生活が苦しくなる』

と。

「輸入物価とは何か」という定義づけにもよるのですが、少なくともこの表で見る限り、「輸入物価」は下落しています。

こんなことを言うと、

「確かに輸入額の総額は下落しているかもしれないが、品目ごと、単品ごとの『輸入価格』は下落しているんじゃないか」

という方がいるかもしれません。

ですが、例えば「GDP」で見てみますと、

2012年7月~9月のGDPは実質で128兆円。名目で115兆円。
2015年7月~9月のGDPは実質で130兆円。名目で122兆円。

本来であれば10月のデータが含まれるものを利用するべきでしょうが、2015年10月を含むデータはまだ公表されていませんので、7~9月のデータを比較します。

消費増税が行われていますので、名目で単純比較はできませんが、1%あたりの消費税収が年間で2兆円。増税額は3%分ですから、年間で6兆円の増税であると考えると、単純計算で4半期の増税による影響は1.5兆円。

2015年の名目は122兆、2012年の名目は115兆ですから、7兆円の経済成長。消費増税分を考慮しても、5兆円は経済成長していることになります。

経済全体を構成するGDPが名実ともに成長する中で、円建ての輸入総額が下落しているということは、即ち日本国経済の「輸入依存度」が下落していることを意味しています。

例えば、仮に「輸入価格」が上昇していたとしても、国内に代替品があるのならば、わざわざ輸入せず、国内で生産されたものを利用すればよいだけの話です。「輸入総額」がドルベースで見て大幅に下落している理由の中の一つに、このような理由が考えられます。

ですが、この「輸入総額」の下落に関しては、単純にこのように国内生産品に需要が代替されているだけ・・・と考えることは、少し尚早であるように感じます。


ガソリン価格の推移と為替相場

先ほどの二つのグラフで比較しますと、実は「輸入総額」以外にも大幅に変化している項目があります。
それは、「鉱物性燃料」のシェア率で、2012年の28%→19%に下落しています。

実は、輸入総額の変動に最も大きな影響をもたらしているのはこの「鉱物性燃料」です。
鉱物性燃料の内訳を見ますと、「原油及び粗油」「石油製品」「揮発油」「液化天然ガス」「液化石油ガス」「石炭」という6つの項目です。

ガソリン価格・為替比較(全体)

こちらは、ガソリン価格の推移を円ドルの為替相場の推移と比較したものです。安倍内閣がスタートする2年前、2011年~2015年12月までのデータです。

ガソリン価格については e燃費 というサイトに掲載されている実売価格を参考にしています。
赤が為替相場、青がガソリン価格です。
為替相場のグラフは、「円安」だと上昇し、「円高」だと下落します。「安い」「高い」の表現とは逆の動きをしますのでご注意ください。

2014年末、7月~10月まで円安とガソリン高が同時に進行した後、11月以降ガソリン価格が大幅に下落しているのがわかるでしょうか。

例えば、円/ドルの為替相場が1ドル100円から120円に下落した場合(1円当たりで考えるとドルは下落しています)。
輸入品のとある一品目の単価が100ドルであったとします。

1ドルが100円の場合、100ドル×100円=1万円ですが、120円の場合は100ドル×120円=1万2千円

となります。
このように、「円安相場」では通常輸入品の価格は日本国内では上昇するはずなのです。

安倍内閣に入って、円安が急速に進行し、『輸入物価が上昇』し、『国民の生活が苦しくなる』
という考え方は、この考え方に基づきます。

ところが、先ほどのグラフを見ると、どうも「円高」の時にガソリン価格は上昇し、「円安」の時に下落しているように見えないでしょうか。
長期時系列では確認しづらいかもしれませんので、少し時期を分割してみます。

ガソリン価格・為替比較(2011)

本来ならば「円安&ガソリン高」「円高&ガソリン安」がセットになっているのが普通ですが、どうでしょう。
円安が進むと、つまり赤のラインが上昇すると、ガソリン価格、つまり青のラインが下落し、円高が進む(赤ラインが下落する)とガソリン価格が上昇(青のラインが上昇)しているように見えないでしょうか。

ガソリン価格・為替比較(2012)

こちらはどうでしょう。2011年とは異なり、為替とガソリン価格が連動しているように見えますね。

ガソリン価格・為替比較(2013)

こちらは2013年のデータです。
少しわかりやすくなってきました。これ、全体のトレンド、すなわち年間を通じてみると、確かに「円安」と「ガソリン高」が連動しているように見えるのですが、月単位での推移を比較しますと、「円安」に動くとガソリン価格が下落し、「円高」に動くとガソリン高に推移しているように見えませんか?

ガソリン価格・為替比較(2014~2015)

1年では動きをつかみにくいので、こちらは2年間の推移を示しています。
特に見ていただきたいのが、2014年10月以降の動き。それまで1ドル100円代だった為替相場が120円台にまで急速にシフトする中で、ガソリン価格が急速に下落しています。

一部為替とガソリン価格が連動している部分もあるのですが、上がり下がりを繰り返しながら、ガソリン価格は大幅に下落しています。

ガソリン価格と為替相場は、セオリーとは真逆の動きをしているのです。
どうしてこのようなことが起きるのでしょうか。

「ガソリン価格」の決まり方

原油価格 推移

こちらは、「原油価格」。つまり、ガソリン価格の大本となる「原油価格」の推移です。
海外で取引されるので、ドルベースで掲載しています。この数字を「ガソリン価格」と比較してみます。

ガソリン価格・為替比較(全体)

いかがでしょう。「ガソリン価格」が「原油価格」とほぼ連動している様子がわかりますでしょうか。
日本の「ガソリン価格」はこの、海外で取引されている「原油価格」を参考にして決められています。

「原油価格」はドルベースですから、円相場の推移とは関係がないはずです。
ところが、一部とはいえ、ガソリン価格と為替相場が連動しているように、原油価格と為替相場に一致性の見られる部分があることも確かです。

では、どうしてこのようなことが起きるのでしょうか。

「為替相場」だけが「輸入価格」を決定しているわけではない!

「原油価格」を決定しているのは、いわゆる「投機マネー」です。
原油が必要だから原油を買うわけではなく、原油を売り買いすることによって上下する原油価格の差額を利用して、「お金を儲けるためだけ」に原油に対して投機(投資ではなく)を行う、主に海外の「投機筋」と呼ばれる連中よって注ぎ込まれるお金のことを「投機マネー」と言います。

もっと言うと、「株式」も「為替」も、そのほか「大豆」であったり、「トウモロコシ」であったり、単なる売り買いだけでなく、将来の金額の動きを予測して行われる「先物取引」などもこの「投機筋」によって大きく動かされています。

第18回の記事におきまして、「円キャリートレード」についてご説明いたしました。

「円キャリートレード」とは、この「投機筋」が、世界一の低金利である日本の銀行から大量にお金を借り、借りたお金を海外のリスクの高い金融商品に対して行う「投機」のことです。

リーマンブラザーズの破綻に伴い、日本から借りた大量のお金が、一気に返済されたのが「リーマンショック」。
ですので、このとき日本円は、「米ドル」だけでなくその他のほぼすべての通貨に対して「円高」となりました。

ですが、「円高」になるということは、日本の通貨は海外のほぼすべての通貨に対して「価値」を上げているということです。

リーマンショックが起きる前までは、投機筋が集めた日本円は、今度は日本国内の株式に投資され、「為替」以外の方法で価値を上げて、再び円に換えられ、円からドルに換えられていました。

為替相場は「円安」ですから、ドル→円に両替して、日本国内でお金を借りようとしても、両替した時よりお金を借りるときの円の価値が下がっている可能性がありますので、株式に投資して、お金を増やしてから海外に持ち出すのです。

海外から投入された資金は、価値を上げて海外に流出しますから、当然海外から入ってくる資金よりも出ていく資金のほうが多くなります。

結果的に「円安」となるわけですが、リーマンショック後、特に民主党政権下、「流動性の罠」に陥った日本国内の市場では、仮に株式に投機を行ったとしても、その価値が上がるとは考えられません。

ですので、日本国内で価値を膨らませた「外資」は、日本国内の投機対象ではなく、海外の「原油」に対して注ぎ込まれました。
日本国内では、「通貨」の価値が最も高まる可能性が高いわけですから、原油相場で価値を高めた外資は、再び円に注ぎ込まれます。
通貨を「円」として保有しているだけで、勝手に価値が高まるのですから、当然のことです。

流出する資金より、流入する資金のほうが多くなりますから、結果的に「円高」になります。

安倍内閣では、日銀が「2%の物価上昇率」を唱え、「異次元の金融緩和」を宣言することにより、「期待インフレ率」が高まりました。
(「期待インフレ率」については第23回の記事をご参照ください)

このことによって、「市場が動くのではないか」との期待が高まり、これまで国内の市場には向けられなかった「外資」が、ついに国内の株式市場へと投入されることとなりました。

単純に「円安誘導」と言いますが、市場が円安に推移したのは「結果論」に過ぎません。
これまで海外の原油市場に向けられていた投機マネーが、原油から国内の株式に向けられるようになったために起きた現象です。

金額前年
同月比
総額53,622,517-21.9
食料品5,125,428-9.4
原料品3,014,761-29.8
鉱物性燃料10,265,479-48.7
化学製品5,508,773-1.8
原料別製品4,816,109-16.6
一般機械4,686,717-11.2
電気機器9,251,026-8.9
輸送用機器2,393,556-10.9
その他8,560,668-6.4

↑こちらは2015年10月の輸入商品別の輸入額と前年同月比です。
ドルベースで為替変動は含まれていませんので、単純に「輸入額」または「輸入量」の変動が掲載されています。

食料品を生産するうえでも、工業品を生産するうえでも、必ず利用されるのが「鉱物性燃料」、つまり「原油」です。
生産するだけでなく、輸送する際にも、必ず利用されるのが「鉱物性燃料」です。

表で見ていただければわかると思うのですが、確かに最も大きな変動がみられるのは「鉱物性燃料」で-48%。
半分近くまで減少していますが、この影響を受けるのは鉱物性燃料だけではない、ということです。

これは、「輸出」に関しても同じ考え方ができます。
原油価格が下落したことにより、生産コストを大幅に削減することができますから、仮に「輸出金額」が減少していたとしても、そこから得られる「利益」については上昇している可能性が高くなっていると考えられます。

いかがでしょう。

安倍内閣に入って、円安が急速に進行し、『輸入物価が上昇』し、『国民の生活が苦しくなる』

というマスコミ報道が、いかに現状を把握しない、恣意的に歪められた情報であるのかということがご理解いただけたでしょうか。

ロイターニュースでが、このような報道がありました。
15年度税収56.4兆円に、1.9兆円上振れ 補正財源に充当

次回記事では、こちらの報道を解説する形で、シリーズ「アベノミクスを問う」を締めくくりたいと思います。
このシリーズの過去の記事
>> 第162回 2016年9月版原油価格とガソリン価格の推移/為替相場との比較
このシリーズの新しい記事
>>

このシリーズの一覧をご覧になりたい方は >>原油価格 よりご確認ください


TOP原油価格第45回 「原油価格」と「為替相場」

このエントリーにお寄せ頂いたコメント

緻密で客観的なご考察に感服致します。
(いいねだけで、現状「匿名」のままでのコメントの失礼をお詫びします。)
匿名希望 at 2017/02/28(火) 12:28 | URL

> 緻密で客観的なご考察に感服致します。
> (いいねだけで、現状「匿名」のままでのコメントの失礼をお詫びします。)

丁寧なコメント、ありがとうございます。
私のブログをご訪問いただける皆様にとって、よりよい情報を、わかりやすくお届けすることをモットーに、これからも「分析」と「検証」を繰り返していきたいとおもます。

今後とも、よろしくお願いいたします。
nonkinonki at 2017/02/28(火) 15:21 | URL

URL:
コメント:
 

スポンサードリンク

Copyright © 真実を問う!データから見る日本 All Rights Reserved.
ほったらかしでも稼げるFC2ブログテンプレート [PR]