第277回 日米開戦とハルノート/甲案・乙案の意味(11月20日日本側対案)など、政治・経済を中心とした日常的な情報を、独自な視点で解析します。

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この記事のカテゴリー >>十五年戦争(日中戦争)の原因と結果


<継承する記事>
第274回 日米開戦決断に至る経緯/第三次近衛文麿内閣解散に至る経緯

今回の記事では、第274回記事 にてお示しした「9月25日日本側対案」に引き続き米国側に示される「11月20日対案」の原型となる、「甲案」及び「乙案」について記事にしたいと思います。

松岡が去り、近衛内閣が総辞職し、ついに「東條英機」が政権の中心の座に就きました。
今後の交渉は「近衛内閣」ではなく「東條内閣」によって行われます。

東條英機

【対米甲案及乙案】
昭和16年11月5日御前会議決定
対米甲案及乙案

甲案
(1) 通商無差別問題
九月二十五日案にて到底妥結の見込みなき際は「日本国政府は無差別原則が全世界に適用せらるるものなるに於ては太平洋全地域即ち支那に於ても本原則の行わるることを承認す」と修正す

(2) 三国条約の解釈及履行問題
我方に於て自衛権の解釈を濫りに拡大する意図なきことを更に明瞭にすると共に三国条約の解釈及履行に関しては従来屢々説明せる如く帝国政府の自ら決定する所に依りて行動する次第にして此点は既に米国側の了承を得たるものなりと思考する旨を以て応酬す

(3) 撤兵問題
本件は左記の通り緩和す
(A) 支那に於ける駐兵及撤兵
支那事変の為支那に派遣せられたる日本国軍隊は北支及蒙疆の一定地域及び海南島に関しては日支間平和成立後所要期間駐屯すべく爾余の軍隊は平和成立と同時に日支間に別に定めらるる所に従い撤去を開始治安確立と共に二年以内に之を完了すべし

(註)所要時間に付米側より質問ありたる場合は概ね二十五年を目途ろするものなる旨を以て応酬するものとす

(B) 仏印に於ける駐兵及撤兵
日本国政府は仏領印度支那の領土主権を尊重す、現に仏領印度支那に派遣せられ居る日本国軍は支那事変にして解決するか又は公正なる極東平和の確立するに於ては直に之を撤去すべし、尚四原則に付ては之を日米間の正式妥結事項(了解案たると又は其他の声明なるとを問わず)中に包含せしむることは極力回避するものとす


乙案
(1) 日米両国政府は孰れも仏印以外の南東亜細亜及南太平洋地域に武力的進出を行わざることを確約す
(2) 日米両国政府は蘭領印度に於て其必要とする物資の獲得が保障せらるる様相互に協力するものとす
(3) 日米両国政府は相互に通商関係を資産凍結前の状態に復帰すべし 米国政府は所要の石油の対日供給を約す
(4) 米国政府は日支両国の和平に関する努力に支障を与うるが如き行動に出でざるべし

備考
必要に応じ本取極成立せば南部仏印駐屯中の日本軍は北部に移駐するの用意あること並に日支間和平成立するか又は太平洋地域に於ける公正なる平和確立する上は前記日本軍隊を撤退すべき旨を約束し差支なし
必要に応じては甲案中に包含せらるる通商無差別待遇に関する規定及三国条約の解釈及履行に関する既定を追加挿入するものとす

経緯からすると、米国は9月25日に日本側が示した対案に対し、改めて

 「ハル四原則の確認」 及び 「仏領インドシナおよび中国からの撤兵の要求」

がなされます。
日本側は、米国の要求に応じて松岡を外相から外した上で、この「25日対案」を示したわけですが、結局お互いに平行線。
妥結に至ることはありませんでした。

タイミング的には8月に日本軍による「南部仏印進駐」が実行され、米国は日本に対し「石油輸出全面禁止」を敢行。
資源の枯渇という危機に晒される日本としては、この後対米国戦の準備を進めながら、同時に戦争回避に向けた交渉を進めていくこととなります。

例えば、11月7日には「機密連合艦隊命令作第二号」というものが出されていて、作戦(真珠湾攻撃)の結構予定日を12月8日して、連合艦隊司令長官をあの山本五十六が務める、潜水艦隊が11月10日~20日にかけて出発しています。


「ハル」より改めて行われた「要求」に対する回答して作成されたのが前記した「甲案」と「乙案」。
交渉役は野村大使です。

そしてこの甲案および乙案は日本の「最終案」。
日本側とすれば、これ以上は妥協するつもりはありませんよ、という日本側からのメッセージです。

交渉の進め方として、野村は先ず「甲案」を中心に交渉を進めます。
これで妥結に至らなかった場合は「乙案」を中心に交渉を進める、という形です。

「機密連合艦隊命令作第二号」が発令されたその日に野村は米国側に「甲案」を手渡すわけですが、その3日後、つまり「機密連合艦隊命令作第二号」が実行に移されたその日、野村は米国側より、

 「アメリカ政府は日本が近日中に武力行使を実施するという確実な情報を得ている」

という趣旨の内容を告げられたことを日本側に報告します。
そして、この時米国側より、「日本の出方によっては米国も『対日開戦』を辞さない」とも告げられています。

また、その翌々日(11月12日)、東郷外務大臣は「天津英租界封鎖事件」に於いて、当時の日本の有田外相と交渉した「クレーギー英大使」と会談し、クレーギーより米国のハルが

 「日米会談は予備的意見交換の域をでないものである」

と説明していた、との情報を受けます。
つまりこれは交渉ではなく、今後の日米の対重慶政府、対欧州戦争、対南方政策についての方針を決めるための「予備的な意見交換である」とハルはクレーギーに説明した、との報告を受けたわけです

これはさすがに「馬鹿にしているのか!」と感じたのではないでしょうか。
日本は当然日中戦争に対して早く決着をつけたい、と考えているわけで、これを裏側から支援し続ける米国に対して「こんなことはいいかげんにしてほしい」と散々メッセージを送っていたわけです。

その上で資源の対日輸出を全面的にストップされ、日本としては後がない状態にまで追い込まれているのです。
対米開戦まで決意して、国内では閣僚間で喧々諤々、意見をぶつけ合って喧嘩までして話し合いを続けていたのに、これを「予備的な『意見交換』」だとか。

日本に取ってはこの交渉結果はまさしく「死活問題」となるのに、米国はまるで「ゲーム」でもあるかのようにしてこの交渉を進めていたということです。

東郷はクレーギーに対し、「日本側が最終提案を行い交渉は最終段階に入っている」と通告します。

勿論ポジティブな意味合いではありませんね。
この交渉がまとまらなければ米国に戦争を仕掛けますよ、と言ったに等しいわけです。

実際既に潜水艦隊を真珠湾に向けて発信させた後ですし。

ハルは野村に対し、「甲案」への返答の代わりに、「甲号」「乙合」という二つの「オーラルステートメント」を提示しました。

ハルは東條内閣に対して、「新内閣もこれまでの(近衛)内閣と『日米諒解案』に対する立場は一緒なのか」ということを「甲号」で問いかけた上で、さらに「乙号」にて、「日中和平に対する思いつき」を説明しています。

ハルのこののらりくらりした態度に対して、野村大使も「遺憾なものである」と発言しています。

この間にも日本に於いては開戦に向けた準備が進められており、この時点で「南方」には、既に「蘭領東インド、マレー半島、フィリピン諸島」を攻略するための部隊が編成されています。

11月15日、大本営陸軍部より、南方軍に対して攻撃命令が発令されます。(この時点での作戦開始は保留されています)


「11月20日日本側対案」の提示

さて。このような状況の中、東郷は「業を煮やした」のでしょうか。
野村大使に加えて米国に対し、更に「来栖三郎大使」を派遣します。

そして11月20日、米国に提示されたのが「乙案」。つまり日本側の「最終案」です。


米国側からの回答が遅々として得られない中、11月26日、ついに「真珠湾攻撃」を行う為の「ハワイ作戦部隊」が択捉島ヒトカップ湾より出動します。

もちろん交渉がまとまれば作戦を中止して引き返すよう命令を与えられて。

その翌日、11月26日に米国側より突きつけられたのがあの「ハルノート」でした。

【ハルノート】
日米交渉11月26日米側提案
(1941年11月27日来電、第1192号、1193号)

合衆国及び日本国間協定の基礎概略

第1項 政策に関する相互宣言案

合衆国政府及び日本政府は共に太平洋の平和を欲し其の国策は太平洋地域全般に亙(わた)る永続的且つ広汎なる平和を目的とし、 両国は右地域に於いて何等領土的企図を有せず、 他国を脅威し又は隣接国に対し侵略的に武力を行使するの意図なく又その国策に於いては相互間及び一切の他国政府との間の関係の基礎たる左記根本諸原則を積極的に支持し且つ之を実際的に適用すべき旨宣明す。

 1.一切の国家の領土保全及び主権の不可侵原則

 2.他の諸国の国内問題に対する不干与の原則

 3.通商上の機会及び待遇の平等を含む平等原則

 4.紛争の防止及び平和的解決並びに平和的方法および手続に依る国際情勢改善の為国際協力及び国際調停遵拠の原則

日本国政府及び合衆国政府は慢性的政治不安定の根絶、頻繁なる経済的崩壊の防止及び平和の基礎設定の為め、相互間並びに他国家及び他国民との間の経済関係に於いて左記諸原則を積極的に支持し、 且つ実際的に適用すべきことを合意せり

 1.国際通商関係に於ける無差別待遇の原則

 2.国際的経済協力及び過度の通商制限に現れたる極端なる国家主義撤廃の原則

 3.一切の国家に依る無差別的なる原料物資獲得の原則

 4.国際的商品協定の運用に関し消費国家及び民衆の利益の十分なる保護の原則

 5.一切の国家の主要企業及び連続的発展に資し、且つ一切の国家の福祉に合致する貿易手続きによる支払いを許容せしむるが如き国際金融機構及び取極め樹立の原則


第2項 

合衆国政府及び日本国政府の採るべき措置

合衆国政府及び日本国政府は左記の如き措置を採ることを提案す

 1.合衆国政府及び日本国政府は英帝国支那、日本国、和蘭(オランダ)、蘇連邦、泰国、及び合衆国間多辺的不可侵条約の締結に努むべし

 2.当国政府は米、英、支、日、蘭、及び泰政府間に各国政府が仏領印度支那の領土主権を尊重し、且つ印度支那の領土保全に対する脅威に対処するに必要且つ適当なりと看做(みな)さるべき措置を講ずるの目的を以って即時協議する旨誓約すべき協定の締結に努むべし

 3.斯かる協定は又協定締約国たる各国政府が印度支那との貿易若しくは経済関係に於いて特恵的待遇を求め、又は受けざるべく且つ各締約国の為仏領印度支那との貿易及び通商に於ける平等待遇を確保するが為尽力すべき旨規定すべきものとす

 4.日本国政府は支那及び印度支那より一切の陸、海、空軍兵力及び警察力を撤収すべし

 5.合衆国政府及び日本国政府は臨時に首都を重慶に置ける中華民国国民政府以外の支那に於ける如何なる政府、若しくは政権をも軍事的、経済的に支持せざるべし

 6.両国政府は外国租界及び居留地内及び之に関連せる諸権益並びに1901年の団匪事件(義和団事件の事)議定書に依る諸権利を含む支那に在る一切の治外法権を放棄すべし

 7.両国政府は外国租界及び居留地に於ける諸権利並びに1901年の団匪事件議定書による諸権利を含む支那に於ける治外法権廃棄方に付き英国政府及び其の外の政府の同意を取り付くべく努力すべし

 8.合衆国政府及び日本政府は互恵的最恵国待遇及び通障壁の低減並びに生糸を自由品目として据え置かんとする米側企図に基き合衆国及び日本国間に通商協定締結の為協議を開始すべし

 9.合衆国政府及び日本国政府はそれぞれ合衆国に在る日本資金および日本国に在る米国資金に対する凍結措置を撤廃すべし
 10.両国政府は円払い為替の安定に関する案に付き協定し右目的の為適当なる資金の割り当ては半額を日本国より半額を合衆国より給与せらるべきことを合意すべし

 11.両国政府は其の何れかの一方が第三国と締結しおる如何なる協定も同国に依り本協定の根本目的即ち太平洋地域全般の平和確立及び保持に矛盾するが如く解釈せらるべきことを同意すべし

 12.両国政府は他国政府をして本協定に規定せる基本的なる政治的経済的原則を遵守し、且つ之を実際的に適用せしむる為其の勢力を行使すべし

このハルノートとセットでついて来たのが「ハル」の「オーラルステートメント」です。

【ハルのオーラルステートメント】
Oral
Strictly confidential
November 26, 1941

The representatives of the Government of the United States and of the Government of Japan have been carrying on during the past several months informal and exploratory conversations for the purpose of arriving at a settlement if possible of questions relating to the entire Pacific area based upon the principles of peace, law and order and fair dealing among nations. These principles include the principle of inviolability of territorial integrity and sovereignty of each and all nations; the principle of non-interference in the internal affairs of other countries; the principle of equality, including equality of commercial opportunity and treatment; and the principle of reliance upon international cooperation and conciliation for the prevention and pacific settlement of controversies and for improvement of international conditions by peaceful methods and processes.

It is believed that in our discussions some progress has been made in reference to the general principles which constitute the basis of a peaceful settlement covering the entire Pacific area. Recently the Japanese Ambassador has stated that the Japanese Government is desirous of continuing the conversations directed toward a comprehensive and peaceful settlement of the Pacific area; that it would be helpful toward creating an atmosphere favorable to the successful outcome of the conversations if a temporary modus vivendi could be agreed upon to be in effect while the conversations looking to peaceful settlement in the Pacific were continuing. On November 20 the Japanese Ambassador communicated to the Secretary of State proposals in regard to temporary measure to be taken respectively by the Government of Japan and by the Government of the United States, which measures are understood to have been designed to accomplish the purposes above indicated.

The Government of the United States most earnestly desires to contribute to the promotion and maintenance of peace and stability in the Pacific area, and to afford every opportunity for the continuance of discussion with the Japanese Government directed toward working out a broad-gauge program of peace throughout the Pacific area. The proposals which were presented by the Japanese Ambassador on November 20 contain some features which, in the opinion of this Government, conflict with the fundamental principles which form a part of the general settlement under consideration and to which each Government has declared that it is committed. The Government of the United States believes that the adoption of such proposals would not be likely to contribute to the ultimate objectives of ensuring peace under law, order and justice in the Pacific area, and it suggests that further effort be made to resolve our divergences of view in regard to the practical application of the fundamental principles already mentioned.

With this object in view the Government of the United States offers for the consideration of the Japanese Government a plan of a broad but simple settlement covering the entire Pacific area as one practical exemplification of a program which this Government envisages as something to be worked out during our further conversations.

The plan therein suggested represents an effort to bridge the gap between our draft of June 21, 1941 and the Japanese draft of September 25 by making a new approach to the essential problems underlying a comprehensive Pacific settlement. This plan contains provisions dealing with the practical application of the fundamental principles which we have agreed in our conversations constitute the only sound basis for worthwhile international relations. We hope that in this way progress toward reaching a meeting of minds between our two Governments may be expedited.

読めませんね。。。
私も訳しきれません。ですが、第250回の記事 でも記しました通り、このオーラルステートメントのポイントとなるのは、

「日本大使が提示した11月20日の提案は、和解のための基本原則と矛盾し、受け入れることはできない」
「ハルノートは、1940年6月21日にアメリカが側が出した提案と、日本が9月25日に出した提案のギャップを埋める事を目的としている」

これ、はっきり言って

 「議論を6月21日の時点に戻って、もう一度一からやり為しましょう」

と、ハルはそう言っているのに等しいのです。
いや・・・オタクが資源輸出を全面的にストップしたせいで、日本にはもう「資源」は枯渇する寸前まで来ていて、そんな悠長なことは言ってられないんですけど。

日本がオタク求めているのは「重慶政府への支援を中止すること」と「欧州戦線に参戦しないこと」。
この二つだけです。あんたたちが重慶政府を支援したりさえしなければ、そもそもこんな問題は発生しなかったんですよ、

と、そう言いたかったでしょうね、大本営陣営は。
それをまた一から交渉をやり直せとか、喧嘩うってるんですか、アメリカさん、と。

これまでの経緯を考えれば、これが日本側の本音でしょう。

「ハルノート」が日本に対する「最後通牒」であったとするのは誤りだと思います。
ですが、これを突きつけられて日本が開戦を決意したことはとてもよく理解できます。

次回記事では、改めてハルが突きつけて来た「ハルノート」を、これまでの交渉経過を振り返りながら検証してみたいと思います。


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