第264回 日本はなぜ真珠湾を攻撃したのか/日米開戦の原因に迫る⑪など、政治・経済を中心とした日常的な情報を、独自な視点で解析します。

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第263回 日本はなぜ真珠湾を攻撃したのか/日米開戦の原因に迫る⑩

今回の記事は、前回、第35回連絡懇談会の議事録に引き続き、第36回連絡懇談会について掲載したいと思います。

【第36回連絡懇談会】
6月30日第36回連絡懇談会
国策要綱閣議提出案、対独通告文、政府声明案、御前会議に於ける外相ご説明案等に関する件

1、自午後5時至同9時
今回は特に企画院総裁、大蔵大臣、商工大臣を加へたり

2、要旨
主題の件に関し懇談する予定なりし所、過般連絡会議に於て決定し上奏御裁可を得たる南方施策促進に関する件に拡る南部仏印進駐に関し、外相より繰り延べ(約6月)の意見出て、之が論議に時間を費し、結局仏印進駐は予定通り実施することに決し、又閣議提出案及政府声明案は決定を見たるも、対独通告文及外相ご説明案は明日午後に研究することとし、御前会議は2日午前に奏請する如く変更し散会セリ

茲に於て最も休息を要する国策の決定は、既に上奏御裁可を得たる仏印進駐に関する外相の蒸し返しに依り意味なく一日遅延せらるるに至れり

塚田参謀次長は本夜徹宵審議決定すべき旨発言せるも、外相は疲労しありとて明日再開を主張セリ

3.南部仏印進駐中止に関する論議の要旨

外相南に火を付けず北をやれと協調し、左の如き要旨を述ぶ

『今日迄独は「ソ」戦争には協力して呉れの程度なりしも、本日「オットー」は本国より訓令を見せ参戦を申し込みたり。尤も此の参戦は訓令に付加し「オットー」の意見希望として述べたるものなり

何れにしても帝国は参戦を決意せざるべからず、南に火をつけるのを止めては如何
北に出る為には南仏進駐を注視しては如何
約6月延期しては如何

然しならがら総帥部総理に於て飽(あく)迄実行する決意ならば、既に一度讃成せる自分故不同意はなし』

右に対し、海相は杉山総長に約6月位延期してはどうかと述べ、又近藤次長は延期する様に考え様と塚田次長に私語せるも、次長は参謀総長に断乎進駐を敢行すべきを具申し、杉山総長、永野総長と協議の上、総帥部を代表し断乎進駐すべき旨を表明セリ

近衛総理は総帥部がやられるとならばやると述べ、外相は然らばやるが、其他の大臣は依存なきやと問ひ、各大臣も異存なしと発言し、結局原案通り実行することとなれり

4.前項に関連し尚左の如き発言あり

外相
吾輩は数年先の予言をして的中せぬことはない。南に手をつければ大事になると吾輩は予言する。それを総長はないと保証できるか

尚南仏に進駐せば、石油、「ゴム」、錫、米等皆入手困難となる

英雄は頭を転向する、吾輩は戦犯南進論を述べたるも今度は北方に転向する次第なり

武藤局長
南仏に進駐してこそ「ゴム」錫等が取れるのである

内相
北をやらねばならぬと思う。而し出来るかできないかが問題で、之は軍部の御考による他なし

軍令部総長
北に手を出すには、海軍としては一切を南に準備して居るのを北に変更する必要を生じ、之が為約50日かかる

5.帝国政府声明案に就きては、情報局提出の一案に対し近衛総理不同意なり

総理
この様な抽象的な事を出しても国民は承知すまい、重みのあるなんとかうまい方法はないか

参謀総長
三国枢軸を基調とすること、支那事変処理をやることを付加してはどうか

総理
総帥部から国策決定セリと発言しては如何

書記局長より種々提案在り。結局近衛総理の発案により『本日御前会議開催せられ当面せる帝国の重要国策の決定を見たり』と声明するに決す

6.対独通告文並外相説明案に関しては外相疲労して居るから帰って更に研究し度(たい)と述べ、塚田次長徹宵審議を定義したるも遂に審議するに至らず

7.以上の懇談のうち外相は外交の原則論を述べ、参謀総長及同次長は今や原則論の時機にあらず、高等政略と高等戦略との調和に依る国策の決定をなすに在りと熱心に論議セリ。而して海軍側の大臣、総長、次長は殆ど発言することなく、従って参謀本部と外相との討議に終始せるが如き次第なり

依是観仏印進駐に関しては、之に対する外相の逡巡、海相、近藤次長の延期説等を続り、進駐実施に方りては相当の波瀾を生ずべく又本日の会議の空気並海軍側対独通告文の趣旨(南北何れにも出る案)等に鑑み北方の好機を捉え愈々(いよいよ)実行する場合に於ても大なる紛糾を生ずべきを予想せられ憂患に絶えず

さて。この連絡懇談会、途中に松岡外相による「予言」なるものが登場しますね?

『吾輩は数年先の予言をして的中せぬことはない。南に手をつければ大事になると吾輩は予言する。それを総長はないと保証できるか

尚南仏に進駐せば、石油、「ゴム」、錫、米等皆入手困難となる

英雄は頭を転向する、吾輩は先般南進論を述べたるも今度は北方に転向する次第なり』

と。日にちにして1941年6月30日の事。
この後、7月21日にヴィシー政府との交渉が成立し、この内容が24日独伊に、25日に英米に通告されます。

アメリカはこれに不快感を示し、同日対日資金凍結措置を凍結。イギリスがこれに追従し、同じく対日資金凍結措置を行い、翌26日日英通商航海条約の破棄を通告。オランダもこれに追随し、「日蘭民間石油協定」を停止します。

28日、南部仏印進駐が実施され、ついに米国は日本に対する対日石油輸出全面禁止を実施。
所謂「ABCD包囲網」が完成するに至ります。

ひょっとすると陸軍は無事ヴィシー政府との交渉が妥結した段階で「ホッとした」のかもしれません。
「これで武力行使せずにすむ」と。

「武力行使をすれば英米との交戦状態に陥りかねなかったが、これを行わずに済んだ」と。

ところが、結果起きたことはまさしく松岡が「予言」した通りでした。

松岡が「南方施策促進に関する件」於いては積極的に同意する姿勢を見せておきながら、なぜ「情勢ノ推移ニ伴フ帝国国策要綱」では全く逆の姿勢を見せていたのか。

ここで初めてその理由が示されていますね。

「英雄は頭を転向する、吾輩は先般南進論を述べたるも今度は北方に転向する次第なり」と。

一旦は南進論に同意する姿勢を見せたけれども、やっぱりこれには反対であった、と暗に述べているわけです。

引き続き、「第37回連絡懇談会」の議事録です。

【第37回連絡懇談会】
7月1日第37回連絡懇談会
対独通告文及び外相御説明案に関する件

1.出席者前回の通り

2.対独通告文に就き外相起案の別紙に依り研究し原案通り決定す

右に関連し塚田参謀次長と外相の間に左記論議あり

次長
外務大臣の通告文は統帥行動にれるべからず

外相
吾輩は混合委員会の長なるを以て統帥行動にもふれる

次長
統帥行動に混合委員会の長と雖もふれるべからず 之れは軍のものが折衝することになって居る

3.尚左記の論議あり

蔵相
陸軍は武力的準備をやるのか

参謀総長
準備をやる 先ず在満部隊を戦時編成となし次て攻勢を取り得る様にする衝動を与えぬ様するにはなかなか苦心を要する

参謀次長
準備はやる 而し乍(なが)らやり得る最小限の兵力を整えてやる積りなり むちゃくちゃに沢山の準備をやる考えはない

蔵相
海軍もやるか

軍令部次長
潜水艦百隻の撃滅を準備する必要あり

陸相
在満部隊を動員する必要あり 而し密かにやると云うことは充分研究の要アリ

商相
物の見地より申し上げる 陸海軍が戦争をやることになれば物の見地から国力はないものと思う

陸海軍共に武力行使をやられるが両面戦争をやるための物は持たぬ 陸軍はさっそく動員をやられるだろうし又海軍も準備をするだろう 船を徴発せらるるからものを取れななくなり生産力拡充軍備充実等にも大なる影響を及ぼす

英米「ソ」に対し不敗の態勢を取ると云うことを研究する必用ありと思う
南進か北進か慎重に研究せられ度(たい)
帝國としては物はない

不敗の態勢と支那事変解決が此の際必要なのではないか

鈴木企画院総裁
自給国以外に期待しある不可欠重要物資に就き説明し総帥部も研究せられ度(たい)

と述ぶ

参謀次長
外相起案の対独通告文及び外相ご説明案なかなかうまく出来て居るではないか
始めから出せばこんなに延びなかっただろう

外相
皆の意見を聞いたからうまく出来たのだ


続いて肝心の「対独通告文」が以下の通りです。

【対独通告文】

対独通告文

在京独逸大使に対する外務大臣通告覚
昭和16.7.1 連絡会議決定

左記を「リッペントロップ」外務大臣にご伝達ありたし

本大臣は在京「オット」対し及在独大島大使を通じ為されたる閣下の要請を敬承し且つ右要請を日本政府に為さるるに当り述べられたる閣下の見解を慎重に検討セリ

本大臣は日本は独逸と共に赤化の脅威と積極的に戦う為に「ソ」連邦に関し有ゆる起り得る事態に対し準備を進め居る旨を述ふることを欣幸とす

日本は豫てより東部「シベリア」に於ける共産主義組織を破壊するの決意を有し特に同方面の状況発展を中止し居れり

右の目的達成と共に極東方面に於て「ソ」連を其の対独戦争に関し牽制線が為軍備の増強其他の手段を講ずることは日本政府の絶えず留意し居る所なることは敢て附言を要せるものとは信ず

右と同時に予は日本政府に於ては仏領印度支那に於ける軍事基地獲得方決定せる旨を通報せんとす
其の結果日本は右両国に対する圧力を強化する次第なり

右と関連し本大臣は日本が南西海面を含む太平洋に於て常に監視を行い英米をけん制し得る事実に付き閣下の注意を喚起せんと欲す

日本は右努力を続行し必要の場合には之を強化すべし
本大臣は右が実に吾等の共同目標に対し重要なる貢献を為すものにして此の際日本の独「ソ」戦争介入に劣らざる重要性を有することに付ては閣下に於ても全然同意見なるべしと信ず

日本は南方に対する努力を軽減する能わず又軽減せざるべし
右は結局戦局全体に対し極めて重大なる影響を有する次第なり

本大臣は独伊両国が近く戦勝を博されんことを確信す
本大臣は茲(ここ)に再び日本政府が三国条約の目的及精神に基き行動すべき旨を閣下に対し確言す


これがドイツのリッペン外務大臣に送った「通告文」です。
まあ、ドイツにとってみれば正直「南方」のことなどどうでもよかったんじゃないか・・・とは思うのですが、日本としてはそういうわけにもいかない、と。

ドイツにソ連を挟撃することを約束しながらも、だからと言って南側を放置するわけにもいかないから、その事だけは分かってよね、という通告文です。

また、日本側の事情としては、「第37回連絡懇談会」に於いて商相が述べていることが何よりも現実を言い表していると思います。
松岡にしても、最終的にはドイツを納得させた上で国内事情をも反映したないように仕上げた所はさすがだなと思います。

何となくこの松岡という外務大臣、麻生さんを彷彿させるんですよね・・・。

小泉内閣で総務大臣という立場にあったため、郵政民営化の旗振り役として頑張ったけれども、本心ではこれに反対であったことを麻生内閣時代にはっきり暴露したり、どこか一か所だけを見つめて偏向的な対策を取らず、全体を大局的に見て物事を考える姿勢とか。

どんなに自分とは反対の意見であったとしても、国策としてまとまった以上はこれに対して最良の結果を示すところとか。

松岡大臣、考えてみれば満州事変で国際連盟からの脱退を決定したのもこの人だったんですよね。

石原莞爾もこの様な傾向がありましたね。
満州事変では筆頭に立って部隊を前進させたのに、第二次上海事変では最後の最後まで開戦に反対したのが石原莞爾でした。

ですが、軍も政府も、その全てが彼らの様に大局的な見地から物事を考えらえる人たちばかりではなかったということ。
また、今回の「南部仏印進駐」に関しては、蒋介石軍をこのまま放置するという選択肢を取れない以上はどうしてもやむを得なかったのかもしれません。

さて。次回記事ではいよいよ「第38回連絡懇談会」。ハル長官からの「米国対案」についての見解について話し合いが行われます。いよいよ「日本が真珠湾攻撃」を行った、その経緯が垣間見られるのでしょうか。


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