第255回 日本はなぜ真珠湾を攻撃したのか/日米開戦の原因に迫る⑦など、政治・経済を中心とした日常的な情報を、独自な視点で解析します。

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<継承する記事>
第254回 日本はなぜ真珠湾を攻撃したのか/日米開戦の原因に迫る⑥

前回の記事を作成する段階に於いて、松岡が「決まった以上早くやるべきだ」とした「南方施策方針に関する件」について、実は松岡は元々賛成してはおらず、2週間の間軍部よりその説明を受け、漸く賛成する側に考え方が変わった、ということが分かりました。

今回の記事では、「南方施策方針に関する件」について、松岡が一体その考え方をどのような流れで変化させていったのか、大本営政府連絡懇談会議事録を追いかける形で検証してみたいと思います。

先ずは松岡が軍部より初めて「南方施策促進に関する件」を聴かされた件から。
双方のコメントを全文掲載します。

【6月12日第30回大本営連絡懇談会】
南方施策促進に関する件

1.軍令総長「南方施策促進に関する件」を説明す
此の際軍令部総長は仏印が応ぜざる場合並英米蘭が妨害したる場合武力を行使することに関し強く協調セリ

2.右に就き議論す、概要左の如し
外相
進駐の言葉は新しく出て来たから今返事は出来ぬ。而し永野総長の説明を聞いた所の思付のことを云えば、この進駐は軍事占領となる、此の占領が仏印に如何なる影響を与えるか、既に仏印の保全に就てはこの前の紛争調停の時日本側に於て表明しある所なり。

仏印側として果して承知と云うかどうか、特に兵力を進駐せしむることに就いては承知するかどうか疑問と思ふ。
こちらが軍事占領と考えなくても適性を持つ英米としては軍事占領と考えふべく、特に英国との衝突を促進することとなるにあらずや。

此の様な点を考えれば進駐と云うことを加えて交渉すれば交渉は成立せんと思う。従って先ず空軍及び海軍の基地を造ることを第一段に交渉し、進駐は第二段に話出してはどうか。最初から進駐を出すことは成立が難しいと思う

参謀総長
既に軍令部より説明ありたる如く最初から軍事占領をするのではない、いかぬ場合にやるのだ、英米側が軍事占領と思うても何等遠慮する必要なかるべし。空軍海軍の基地を交渉することは既に今から半年前決定したことをやるのに過ぎない。今日の状況は変って居る、最早手ぬるくやる必要なし。

外相
進駐の目的如何

参謀総長
仏印の保全と他方支那及南方に対する威圧効果を収めんとするに在り

外相
最初からそんな事を云うては相手は聞かぬだろう

武藤局長
航空基地は兵力なくては出来ぬ、兵力の進駐に依り飛行場は早く出来るのである

外相
それだけの兵力に止め、その他の兵力は後にしてはどうか

参謀総長
そうは出来ぬ、北仏の時も後から駐兵せしむることは難しかった。此度の駐兵は飛行場の為ではない

等の意見交換あり、外相は今日は考えさせてくれと述う


武力行使をやると云うことに就て不同意なのか、同意なのか

外相
不同意にあらず、但此の交渉を進める上に於て進駐を真向に出すことは話を進め難い。趣旨は可なるも第1項の(進駐せしむることを含む)は之を削除し度い、また第二第三項も削除し度い、右削除事項は了解事項に止め度。尚進駐などと云うことは秘密が洩れては大変である


不同意ならば別であるが然らざれば諒解事項などにしておくのは不可、一切秘密を守ることにし本案の如く決定し、諒解事項として次の三項を加えることにしては如何

(1)最後的には本案の通り実行することとす
(2)進駐は其準備相当の日時を要するを以て二段に区分し交渉するも支障なし
(3)第一段の交渉終らば機を失せず第二段の交渉を進む

右に依り全員の同意を得、諒解事項を附記し本文に「サイン」をなし、内閣に一部のみ残し他は機密保持上全部これを回収せり

外相
交渉は何時頃迄に成立せしめ度いのか

参謀総長
成るべく早く成立せしめ度、期限は定めない

外相
実際上にあらわす成文は更に考え様

本日は陸海軍大臣は一言も発言せず 海軍側は軍令部総長相当強く説明したるも、海相は平素比較的多く発言するに反し本日は一言も発言せず

このやり取りから推察しますと、この会議に参加した面々の内、南部進駐に反対する側からの意見を述べたのは松岡のみ。
残る面々は全て軍部よりの意見の持ち主で、松岡がどうも軍部に意見を押し切られた様子が見えてきます。

同日記された「機密戦争日誌」によりますと、どうもこの「南部仏印進駐」を強く推していたのは陸軍で、海軍もまたこの決定が「対英米戦」の決意なしにはできないことを理由として渋っていた事が分かります。

同じ内容で約半年間議論していたのだそうですよ。

引き続き、6月16日、第31回連絡懇談会が開かれます。

【6月16日第31回連絡懇談会】

第31回連絡懇談会

南方施策促進に関する件

要旨
外相より
仏印に進駐したる場合に起り得べき帝国の不利最悪の場合に就き再考せられたい。大島より独側から「ヴシー」を指導する様要望したる所、大島より「ヴシー」が進駐不同意と云うた場合に帝国の態度承りたいと反撃し来れり。

連絡会議に於て種々話ありしも、昨日一日朝三時まで考えたるも、進駐は国際上不信を免れぬと思う、従来国際信義なしと云わるる帝国としては此の点考えなければならぬと思う。独「ソ」情勢の緊迫せる今日、此の如き進駐は如何かと再考する必要あり。此の進駐が不信にあらずと外相として説明出来る迄再考いたしたく、又各位におかれても考え置かれたい

と発言あり。何等決定に至らず散会す、細部に関しては次の如き問答あり

1.細部の問答要旨
外相
進駐となれば昨年8月31日の松岡「アンリ―」協定は破棄となり、従って北仏の駐兵も無効となる。軍事上の基地を造ることはともかく、進駐と云うことになれば独が手を入れて呉れない限り仏も自己の領土に兵を入れることに応諾せざるべし。

仏側から言えば軍事占領となるを以て、95%迄は承知せんと思う。又之に依り先日調印せる調停条約及経済協定等の取極も破棄となり、其影響は蘭印泰にも及び、蘭印は勿論泰からも予期しある「ゴム」二万屯錫三千屯米等も来なくなるだろう。

以上は最悪の場合にして、常に之が全部とは思わぬが、此の如き場合も考慮せねばならぬ。

大島の電報に依れば独「ソ」は来週開戦すると云むて居り、此の如き場合は世界大戦争となり、「ソ」英は同盟し、米は英側に立ちて参戦すべし、此の様な情勢も十分考慮せねばならぬと思う。

特に進駐は帝国として一大不信行為をやることになる、国家の生存上已むを得ぬと云えば云えるかも知れぬが、何れにしても一大不信行為と云わなければならぬ。

海相
今迄の仏印、泰に対する帝国の考えは

参謀総長
変らぬ、進駐することに依り英米の圧迫から仏印を防ぐのだと云うことを諒解せしめれば応諾するにあらずや

外相
然り。然れども「ヴシー」が進駐に応ぜざる場合、これを押切って進駐することは不信なり。此の前の条約批准もすまぬ、武力を行使するも進駐することは不信なり。日本は国際的に不信義と云われておる、外務大臣一人にても此の信義を通したい。無理に進駐することが進駐と云わずしてすむや。

外務大臣として率直に云えば、陛下に之は不信なりと申し上げざるを得ず。

進駐の準備は幾何かかるや、軍事基地は幾何の日数を要するや、軍事基地は何時までにできればよいか。

参謀総長
準備は約20日間、飛行場は二乃至三月、現在飛行場あるも商業用にして重爆撃機の為には舗装するを要す、又大編隊の為には拡張するを様子。進駐を7月中に終り8、9、10月を飛行場の整備に充当するを要す。進駐の為には支那より兵力を転用し、又船舶を集める必要あり。彼の地はやがて雨期に入る故成るべく早くするを要す。

外相
独「ソ」開戦もあり、之を検討する要なきや

参謀総長
独「ソ」開戦に方りても此の程度の施策は必要なり

海相
英「ソ」の同盟は初耳なり、此のことがあると云うならば考えても好い。而し先日決まったものを変更するのは悪いではないか

外相
俺は頭が悪く其の後考えてみたら・・・・・・


腹が変らぬか

外相
腹は変らぬ

陸相
本年中にきまりをつけねば大東亜共栄圏の看板を外さねばならぬ、準備ができたら決意を要する

外相
準備は上奏の必要ありや

参謀総長
目標なくして準備することは出来ぬ
尤も教育訓練等はできるが、兵力の移駐動員編成等は御充裁を仰がなければ或る程度しか出来ぬ

陸相
右の趣旨を更に協調す

軍令部総長
準備をやっておいて、武力を行使するときにお許しを得てはどうか

外相
陸軍はそうは行かぬ、第一次上海事変の時も上田師団長は上海到着後4,5日待った、陸軍が相当の時日を要することは分る

陸相
右に関し更に附加す

参謀総長
海南島に陸兵の集合が完了すると共に電撃外交をやる様にしたいが、此の点からも軍令部総長の言われた様にやるわけにはいかぬ

外相
何れにしても2、3日考えさして呉れ、不信にあらずと云うても自分は不信と思う。此点 陛下に上昇せざるを得ず。この点判断せざれば上奏出来ぬ。昨年「シンガポール」をやれと云うたのにやらなかったからこんな事になった上奏は何時するや、上奏のやり方も考えられたい

以上の如くして結局2、3日再考することとし解散せり

ここまでが6月16日の時点で話し合われた内容です。

そしてこの後6月25日に第253回の記事 でもお伝えしました、「第32回大本営連絡懇談会」が開催され、この場にて松岡より、

「本件は急いだ方が宜し、決定した以上今直ぐが宜しい、随時閣議は刺激するかも知れぬが時局柄やむを得ず」

との言い回しが登場します。
6月16日から25日までの間に何があったこと言うと、まずは日蘭商会の交渉打ち切り、そしてハル長官からの「米国対案」の提出、そして「独ソ戦」の開戦です。

松岡がこれに必死に反対している理由は、軍部が「武力を用いて仏印進駐を行う」としている点です。
松岡のこの問いに対して軍部は「最初から武力を用いると言っているわけではない。仏印側が要求に応じない場合、又は英米蘭がこれを妨害した場合に武力を用いるのだ、と反論をします。

実は6月12日の時点で、既に日本には「ドイツがソ連に攻め入る可能性が高い」という情報は届いています。
「機密戦争日誌」に記された文章を読むと、軍部がこの南部仏印進駐に半ば強引な姿勢を示している最大の理由は独ソ開戦が間近に迫っていたことが一番の理由としてあったようです。

独ソ開戦に至る前に南方問題に決着を付けたかったのでしょう。

また更に、参謀総長は、松岡から進駐の目的を聞かれたとき、
「仏印の保全と他方支那及南方に対する威圧効果を収めんとするに在り」

と回答します。仏印進駐を実行する一つの目的として、第248回の記事 にも記しました様に、フランスの植民地であるインドシナが、何時かヴィシー政権ではなく、ドゴール側に寝返るのではないかという不安を解消することがありましたが、参謀総長はこの目的に加え、「中国と南方に対して威圧効果を高めることも目的の一つだ」と答えます。

これに対し、松岡は「そんなことでは余計にフランスは反発する」と答えます。
松岡は外務大臣ですから、フランスと直接交渉するのは軍部ではなく松岡です。

松岡は軍部の考え方が「武力行使」にあると考え、それではフランスとの交渉を前向きに進めることはできないと感じていたのですね。またこの前提として、この時点での海外に対する日本の評価は芳しいものではありません。

ですから、この様な状況の中で武力行使を行えば、火に油を注ぐ様なものだ・・・と松岡は言っているわけです。

ですが、軍部とすれば最初から武力を用いることは考えておらず、交渉によって進駐を進めることを考えていましたから、ここで松岡と軍部の間で対立が起きるわけです。16日の懇談会でも、松岡は盛んに「ヴィシーが日本案に同意しなかった場合どうするのか」という質問を投げかけています。

松岡が事実上罷免されるのは7月16日、ヴィシー政権との間で南部仏印進駐が合意に至るのが7月19日ですから、結局松岡がいなくなった後でヴィシーとの交渉は合意に至り、「軍事力を用いることなく」南部仏印進駐を行うこととなります。

ですが、その結果起きたことは、松岡が「南部仏印に『軍事力を用いて』進駐した場合に起きる」と想定していた内容とほぼ同じ結果が発生しました

そう考えると、松岡の先見の明には驚かされるばかりです。

さて、次回記事ではここから更に、第248回の記事 でもすでにお示ししている、「第32回大本営政府連絡懇談会」の議事録について詳細な内容を掲載したいと思います。

内容としては、「南方」の問題よりも「北方」の問題の方が中心となります。


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