第243回 ABCD包囲網に至る日本とオランダの経緯/日蘭会商②など、政治・経済を中心とした日常的な情報を、独自な視点で解析します。

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この記事のカテゴリー >>十五年戦争(日中戦争)の原因と結果


<継承する記事>
第242回 ABCD包囲網に至る日本とオランダの経緯/日蘭会商

前回の記事 では、ABCD包囲網に至る日本とオランダとの関係性について、欧州にて第二次世界大戦が勃発する直前までの様子を検証してみました。

欧州にて第二次世界大戦が勃発するのは1939年9月のことになるのですが、この時日本は既に中国との間で「日中戦争」が開戦した状態にありました。

日中戦争の開戦は1938年8月のことですから、日本は中国との間で2年以上にわたり戦闘行為を繰り広げる状況にありました。
この間、国際連盟においては蒋介石の捏造データに基づく日本への非難決議が採択され、日本に対する経済制裁の正当性がすでに認められる状況にもありました。

ですが、この期間も日本とオランダとの間では、オランダ領東インドを通じて正常な貿易が行われる状況にあり、日中戦争の開戦に伴って蘭印から日本への輸出量が減少する状況においては、むしろオランダ側から日本に対して、「もっと輸入してくれよ」と抗議があるような、このような状況にありました。

仏印に対して進駐を行った主目的は飽くまでフランスから蒋介石軍に対して行われていた支援を中断させることがその目的にあったのであり、蒋介石軍に対する支援を行ってなどいなかったオランダに対して仏領と同様の施策を施す必要性など元々ありませんでした。


では、この様に元々良好であったはずの日蘭関係が、「ABCD包囲網」という呼称を用いて日本が直接オランダを非難するまでに至った経緯は、一体どのようにして形成されたのでしょうか。

オランダ領東インド

改めまして、こちらがオランダ領東インドです。
ドイツがポーランドに侵攻し、欧州で第二次世界大戦が勃発します。

オランダはドイツがポーランド侵攻を行う直前に「中立宣言」をしており、枢軸国側にも、連合国側にも与しないスタンスを取っていました。

ですが、日本とすればドイツがオランダにまで侵攻してしまいこの情勢によって、オランダ領東インドまでもが影響を受け、蘭印と自由に交易ができなくなってしまうことだけは避けたいわけです。

この事から、日本は欧州戦が開戦した時点で、オランダに対して、仮にオランダがドイツによって侵攻され、ドイツの占領下に置かれたとしても、日本はオランダ領東インドに対して侵攻したりすることなく、オランダの領土として承認し続けることをオランダとの間で「条約」として取り交わすことを提案します。(この時点ではまだ日独伊三国同盟は締結されていません)

ですが、オランダとしては既に「中立国」としての立場を明言していますから、どこかの国に与するような態度を示すことを良しとせず、条約の締結を希望しない、とする旨を日本側に回答します。

この時の欧州の地理的な情勢を掲載します。

ポーランド侵攻

こちらはポーランド侵攻を解説する際にも用いた地図です。
青いエリアが所謂枢軸国側の領土。緑がソ連、赤が連合国側です。

赤いエリアと青いエリアに挟まれた白いエリアがあります。
オランダ
こちらは現在の世界地図ですが、濃い緑色の部分がオランダです。
先ほどの地図の白いエリアの内、北側。イギリスの右下のエリアがオランダです。

オランダの真下にベルギーがあり、ベルギーも白色で表されています。

個人的には、オランダって改めて考えると、こんなにちっちゃな国だったんだな・・・というのが正直な印象です。

ちなみに、
ノルウェー
こちらがノルウェー。

デンマーク
こちらがデンマークです。


話を本筋に戻します。
昭和15(1940)年4月9日、ドイツがこのノルウェーとデンマークにも侵攻します。

オランダとベルギーが風前の灯火・・・となった時点で、当時の日本の有田外相は、

 「欧州戦争ノ激化ニ伴ヒ蘭印ノ現状ニ何等カノ変更ヲ来スガ如キ事態ノ発生ニ就イテハ深甚ナル関心ヲ有スル」

という声明を発表します。要は、

「ヨーロッパ戦線の情勢が激しくなり、その影響がオランダ領東インドにまで及んで、蘭印にまでなにがしかの影響が及ぶようになんじゃないかと、私はとても心配しています」

といったような意味合いです。ただ、「深甚ナル関心ヲ有スル」という表現は、読み方によっては

 「蘭印の現状になにがしかの変化が起きるんじゃないかということに、日本はとても深い関心を抱いている」

とも読み取れるわけで、米国のマスコミは、この声明について、

 「日本が蘭印を支配する意図を婉曲に述べたもの」

との報道を行います。
勿論これは有田外相の意図するものではなく、堀田米国大使はは米国のコーデル・ハル国務長官に対して、

 「ハルは日本の新聞の一部には蘭印に対する経済上の独占的利益を主張しているとの印象を持つが,そのような主張は黙認できない」

との抗議を行います。

再記しますが、仏印については元々日本がフランスに対して蒋介石に対する支援をやめるよう再三申し入れていたにも拘わらず、フランスが支援を行い続けていたことにそもそもの問題があったのであって、フランスと交渉し、日本軍を駐留させることができる関係を作ることにそもそものメリットが存在しました。

ですが、オランダと日本は元々良好な関係性が築けており、相手の弱みに付け込んで、態々蘭印に兵力を割くことに、日本とするとなんのメリットもないわけです。ただ、前提条件としてあくまでもオランダがこれまでの通り日本と中立の立場で交易を行い続けてくれるのならば、ですが。

ですから、当時の米国報道のような印象操作を行われることは、日本にとって望むべくものではありませんでした。
一方で日本側としては、逆に欧州情況の変化を受け、蘭印との交易が断たれるような事態になる事は絶対に避けたいわけです。

5月10日、ついにドイツ軍はオランダとベルギーに侵攻します。有田外相は翌11日,蘭独英仏の各国政府に対し蘭印の現状維持に関する日本の意向を通報しました

日本側としては、オランダが占領下におかれ主権を失ってしまう前に、なんとしても蘭印における資源の対日供給を継続してもらえるよう、その確約を取り付ける必要がありました。

ですが、戦乱の為、オランダ政府との間で確約を取り付けることが確認できない状況にありましたので、日本はパブスト蘭公使との間で石油・ゴム・錫等13品目の蘭印産重要物資の一定量の対日供給を確約する書面を取り付けました。


さて。この一連の日本とオランダとのやり取りについて、例えばWikipediaでは、以下のような掲載がされていました。
日中戦争の拡大、日米通商航海条約の破棄宣言(1939年7月26日、1940年1月26日失効)、ナチスドイツによるオランダ本国侵攻(1940年5月10日)などを受けて蘭印との経済関係の維持・確保に迫られた米内内閣は、5月11日に蘭印の現状維持を宣言するが、同月20日は蘭印に対して見返りとして重要物資13品目の輸出拡大を要請した。

特に石油・ゴム・錫などの軍需物資の確保は日本にとって至上命令であった。

確かに最終行、「特に石油・ゴム・錫などの軍需物資の確保は日本にとって至上命令であった」という記述についてはその通りだと思います。

ですが、「5月11日に蘭印の現状維持を宣言するが、同月20日は蘭印に対して見返りとして重要物資13品目の輸出拡大を要請した」という表記についてはいかがなものでしょう。

まるで

 「日本はオランダがドイツに占領された後も蘭印の現状維持を認めてやる。その代り、見返りとして重要物資13品目の輸出拡大を確約しろ」

とでも脅して決定したかのような印象がありますが、当時の現状としては、逆にオランダ側が欧州の情勢の変化に伴って日本との取引を中止するのではないか、ということを日本側が危惧していた様子が受けて取れます。

ですので、実際には

 「たとえドイツに占領されたとしてもオランダさん、態度を変えたりするようなことはせず、今まで通り日本と貿易を続けてくださいね」

と日本側から懇願している様な印象を受けます。その確約として、「輸出拡大」というより、重要物資13品目を今で通り継続して輸出しますよ、という約束を取り付けたというのが本当のところなのではないでしょうか。


さて。ここまでは良し。時期は1940年6月6日です。
1940年5月17日の時点で、オランダはドイツの占領下にあり、日本はイギリスにあるオランダの亡命政府との間で交渉を続けました。

この様な情勢を受けて、「日本国内では,蘭印における日本の経済的・政治的な優越地位を確立するため,蘭印に特使を派遣して交渉すべしとの意見」が強まります。

ここまでの段階で日本側のトップは米内内閣総理大臣。
好戦的に、日独伊三国同盟の締結へと突き進む陸軍主導内閣を憂慮し、昭和天皇が名指しで推挙し、総理大臣となった人物です。

米内内閣では、オランダとの再交渉へ向け、人員の選定が行われました。

ところが、畑陸軍大臣の辞任に伴い、米内内閣は総辞職に追い込まれ、結果誕生したのが近衛内閣。(第240回記事 参照)

この後、世界情勢の推移に伴ふ時局処理要綱 が決定され、日本は仏印進駐をスタートします。

オランダとの交渉が行われる中で、9月27日、日本はついに日独伊三国同盟を締結します。
オランダと日本との関係性がぎくしゃくし始めるのはどうもこのころからですね。

次回記事では、この後、オランダと日本との間の交渉の進展を追い、「ABCD包囲網」の完成までの経緯を検証してみたいと思います。


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